原料生産領域がサステナビリティのほとんどを支配する状況下において、原料生産領域を有さない食品メーカー・食品小売企業はどのようにサステナブルな食を実現し、今後の利益を確保していくべきか。その手段は2つあると考える。
食品メーカー・食品小売企業がサステナブルな原料生産に関わるための2つの手段
食品メーカー・食品小売企業が選ぶべき道の1つは買収等を通じて原料生産領域へ自ら進出すること、もう1つは原料生産を行うパートナーに対して強力な支援を行い、サステナビリティの実現をサポートすることである。
原料生産領域への進出は戦略としては明確だが、前述の通り原料生産領域への投資は過熱しており、現時点からの参入は容易ではない。食品メーカー・食品小売企業にとって重要なのは、自社として提供すべき価値、つまり「とがり方」を明確化することだと考える。
二酸化炭素、GHG、土地、水等全ての領域で完璧なサステナビリティを求める場合、多くの企業にとってパートナー候補の探索、投資資金の捻出共に容易なことではない。そのため、どの領域は他社並みとし、どの領域では他社に負けないトッププレイヤーを目指すかを明確化し、そのビジョンに合致したパートナーを選択していくのが大切なのではないか。
領域の選択は、自社の持つ製品群の特性、自社アセットの特性、企業ビジョンとの整合性などから検討していく必要がある。まずは目指すべきサステナビリティ戦略を策定・明確化することが、将来の利益確保に向けた重要な一歩だろう。
2つ目のオプションである支援についても、難易度は高い。原料生産企業は多くの場合食品メーカー・食品小売企業と比して小規模な企業が多く、自力での改革は資金面から難易度が高いケースが多い。また、より高コストな品種や栽培・飼育・養殖方法を選択することで立ち行かなくなってしまう企業も多いだろう。
そのため、他社を巻き込んで強力な支援スキームを構築することが重要だと考える。例えば、英TESCOや米ウォルマートが実際に行っているように、サステナブルな生産を行うサプライヤーに対して低利子融資を行うなど、サプライヤーへ具体的な経済的メリットを提示し、取引先のサステナビリティ向上をサポートしていくことが有効になりうる。(図4)
TESCOのように1社でスキームを構築できない場合、同業他社と提携の上、複数社で投資などを行い支援する方法も考えうるだろう。
日本の食品メーカー及び食品小売企業は今まさに岐路に立たされている。もはやサステナビリティはコストではなく、利益を生み出す投資手段となっている。今サステナビリティを真剣に考え、投資しなければ、世界でも、日本でも利益確保の機を逃すこととなる。
自社がどういった領域を重視し、いつまでに何を実現するのか、そしてどういったパートナーとどのように提携してくのかを改めて検討してはどうか。
- 注1:エコスコアの複雑性などにより十分な意思決定への影響力は発揮できなかったとしたものの、より評価が高い製品をA、最も評価が低い製品をEとして評価したうち、Bの製品とCの製品の間では特に大きな変化がみられ、特に持続可能性を重視する消費者層、39歳以下の年齢層に対しては特にポジティブな効果を発揮したことを発表(Lidl “Auf dem Weg zu einer transparenten Nachhaltigkeitskennzeichnung“ )
- 注2:いずれも2022年9月16日時点・Crunchbase参照
- 図1:Stoxx、CDP参照にRoland Berger作成。STOXXR Global Climate Change LeadersはCDP”A list” databaseに基づき、カーボンリーダーズを含む企業群
- 図2:Roland BergerとPotlocが2020年6月から2020年8月までの間に実施したアメリカ、イギリス、イタリア、サウジアラビア、スペイン、中国、ドイツ、日本、フランス、ブラジル、UAE(アラブ首長国連邦)の計11か国・20都市住民に対する消費者調査
- 図3:Our World in Data参照。
- 図4:TESCO参照。WWF、KPMGとも提携。
著者プロフィール
長谷川千紘
ローランド・ベルガー シニアコンサルタント/東京オフィス
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。国内IT企業におけるマーケティング・広告支援を経て現職。食品他消費財領域を中心に事業戦略立案、買収計画・事業計画・投資評価、マーケティング戦略立案などのプロジェクトに多数従事。
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