DX推進は経営そのもの、守りも攻めもできるところから一気に――H2Oリテイリング 小山徹氏:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
H2Oリテイリングでは2021年度からの3年間で260億円を投資して、ワークスタイルの変革や業務のデジタル化を通じた生産性の向上はもちろん、オンラインとオフラインの融合(OMO)施策や、新たな顧客を取り込む新事業モデルへの挑戦を加速する。同社のIT・デジタル化の推進について、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
新事業モデルへの挑戦も2023年5月に高槻エリア(大阪府高槻市)で始まった。新しい顧客とのつながりを構築することを狙ったスマートフォンアプリ「まちうま」のサービスだ。「まちうま」では、地域のお店や料理の情報を収集することで、自分に合ったお店を見つけることができ、飲食後にも飲食の内容やコメント、お店の評価などを投稿し、記録することができる。一連の顧客体験をシームレスにつなぐことで、「おいしい体験」の最大化を目指しているという。
「IT中期計画をスタートして2年、着実に成果を上げつつあります。とはいえ、現状全てのお客様がスマートフォンを使えるわけではないので、どうしても紙ベースの作業が残ってしまいます。紙が残るということは、どこかでデータ化の作業が必要です。そこでTo be(理想)ではなく、ステップバイステップでCan be(できるものからやる)で進めています。例えばデータ変換では、光学文字読取(OCR)ツールで紙の情報のデータ化を自動化するCan beの取り組みなども進めています」(小山氏)
H2OリテイリングのDXは、ある意味“昭和から令和への進化”
コロナ禍前は、各社が部分最適でIT・デジタル化を推進してきたが、コロナ禍以降はより一層正しくIT・デジタルを活用していくことを目的に、「IT・デジタル経営委員会」を社内に設置した。この委員会では、社外取締役にも参画してもらい、IT投資が適切に使われているか、スケジュールが適切に進捗しているか、成果を着実に上げているかなどをチェックしている。またデジタル化を推進していくために、社内でプロジェクト管理者(PM)はもちろん、エンジニアを育成することも進めている。
「デジタイゼーション、デジタライゼーション、その先のDXの推進では、テクノロジーの導入だけではなく、それを実現する組織を社内外のリソースを活用しながら確立するのはもちろん、人材の採用や育成も重要な取り組みになります。この2年の取り組みで、ローコード開発ツールでシステムを構築できるチームも確立しています。事業部門からIT・デジタル推進室に出向してもらい、ITの“いろは”から開発までのリスキリングも実践しています。2023年度は教育チームも立ち上げる計画です」(小山氏)
またセキュリティに関しても、Can beできっちりと対策していく方針を立てている。例えば、EPP(Endpoint Protection Platform)/EDR(Endpoint Detection and Response)を導入し、標準端末を確実に守る仕組みを導入したほか、ゼロトラストにチャレンジするといった取り組みも進めている。2022年9月の本社移転を機にローカルブレイクアウトのネットワーク構成を導入し、端末からデータセンターを経由せず、インターネットを介してクラウドサービスを利用する仕組みを実現した。
「H2OリテイリングのDXは、ある意味“昭和から令和への進化”です。ITやデジタルは経営そのものですが、一方で道具でしかありません。商品を販売したり、サービスを提供したりすることでお客様から対価を得る、お客様あっての商売であり、関西を中心とした社会の一員でもあります。これを支えるのがIT・デジタルであり、現場がちゃんと使えて初めて経営の武器になります。売上や利益の向上だけでなく、お客様満足度を向上させ、従業員が幸せになれることが重要です。これは経営の責任であり、IT・デジタル推進室がその経営の一翼を担い、現場の代表として取り組むべき課題です。それはSIベンダーやコンサルティング会社の仕事ではありません。繰り返しになりますが、IT・デジタル推進は経営そのものなのです」と小山氏は話す。
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
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