できることからDXにむかって――JFA 鈴木隆喜氏:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
「サムライ・ブルー」の愛称で親しまれているサッカー日本代表のイメージが強い日本サッカー協会(JFA)だが、実は代表チーム強化はその取り組みの1つにすぎない。サッカー競技の普及と振興を図り、国民の心身の健全な発達に寄与することを目的として設立された公益財団法人であり、その活動の幅は広い。現在の目標は、2050年にサッカーを愛する仲間であるサッカーファミリーを1000万人にすること、FIFAワールドカップを再び日本で開催し優勝することの2つである。取り組みの一環として、ITを活用したDXにも取り組んでいる。JFAのDX推進について、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
社内に開発体制を抱えているわけではないJFAがアジャイル開発を実現するために、ローコード開発ツールを導入した点は重要な選択であった。
「最初のアプリケーションは、開発会社の支援を受けて作りました。アプリケーション開発と内製化支援を委託し、JFAからは多少の開発経験を持つ私と他1人が参画し開発を行いました。実際にやってみるとローコード開発ツールの癖や特徴を掴むまで、よくうたわれるような高い開発生産性に行き着くことができず苦労したというのが正直なところです。それでも、何度かの試行錯誤を繰り返し自分たちなりのベストプラクティスは見出せたと思います。結果、開発会社による支援期間が終わった後でも自力で改善サイクルを回せています」(福岡氏)
こうして開発されたアプリケーションはフィジプロが関係しているさまざまな計測会で実際に利用が進められており、改善ポイントが見つかりつつも現場からは総じて好評を得ているという。
鈴木氏は、「DXは作ることが目的ではありません。あくまで人の動きを変えることができるかどうか。人の行動を変えてこそのDXです。スモールスタートだからと言っても人が行動を変えてくれるものでなければ意味がありません。その意味では、最初の一歩としては成功していると自負しています。ただ、この取り組みを発展させるためにもデジタル人材の獲得が重要な課題となっています」と話す。
このアプリケーションに寄せられる期待と自身の将来の夢として福岡氏は、「せっかくデバイスにカメラもマイクもあるのだから、画像解析や音声入力で楽に計測・記録できるようにしてほしいという要望を受けます。確かに、50メートル走を定点位置からスマートフォンで撮影したらAI解析して自動的にタイムを測定・記録してくれるような仕組みが実現できると良いですね」と笑顔を見せた。
サッカーもDXも攻めと守りの両輪があってこそ
JFAは2023年6月下旬に、2002年の日韓ワールドカップ後に入居し20年間に渡り過ごしてきたJFAハウスと呼ぶ自社ビルから新しいオフィスに移転した。それまでも老朽化したネットワークやセキュリティ対策は刷新を進めていたが、この機会にフルクラウドへの移行とゼロトラスト型ネットワークアクセス対応を進めた。
鈴木氏は「デジタルをより安全に活用できる環境がなければDXは進みません。サッカーの試合と同じように、攻めと守りの両輪があって初めて勝利があり成功があると考えています」と話す。
情報システム部門でインフラとセキュリティを担当する主任の廣石貴也氏は、「もともと大半の業務システムはクラウドに移行済みでした。旧拠点は自社ビルで場所が潤沢だったこともあってデータセンタを利用していませんでした。移転に伴いサーバルームの縮小が必要となったので、それまでに進めていたネットワークの刷新とIaaS化を含めたクラウド移行を加速させフルクラウド化した形です。実はこれまでクラウド側のセキュリティ施策はしっかりとは行われてきていませんでしたので、この機会にゼロトラスト系のサイバーセキュリティ施策を進める形となりました。SSO、MFA、CASBといった機能をアクティベートし、セキュリティ施策の推進に専念しているところです。ただ、サイバーセキュリティ施策は運用の手間もかかるため、どのように運用体制を維持するかも重要な課題です」と話す。
今後の展望を鈴木氏は、「内部ではDXという表現こそ使ってはいませんが、DXはユーザーの行動が変わることと定義して取り組んでいます。JFAは、多くの選手や指導者、審判、運営スタッフなど、さまざまな人が関わっている組織です。その方々が、より快適にサッカーに関わることができるための機能やサービスの実現が大切になってきますが、これをIT/デジタル抜きに実現することは極めて困難です。DXを推進していくことがJFAという組織の存在意義を大きく高めると強く確信しています。」と話した。
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
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