データ活用により「成果」を生み出すために必要なのは組織づくりとビジネス力――バンダイナムコネクサス 西田幸平氏:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
ゲームなどのデジタル領域から、トイホビー、店舗展開まで、幅広い事業を総合的に展開するバンダイナムコグループにて、さまざまなIPとファンの接点をより豊かにし、新しい価値を生み出し続けるバンダイナムコネクサス。データ分析により意思決定を支援し、事業に貢献するその取り組みとは。
組織づくりに必要なのは成果の構造をメンバー全員に理解してもらうこと
成果を追求することが当たり前になる組織づくりにまず必要なことは、成果の構造をメンバー全員に理解してもらい、浸透させること。報告書の作成やモデルの精度が〇パーセント上がった等は、組織レベルでは途中経過でしかないという価値観を言語化し、共通認識を持つことである。
また、主責任領域を明確にすることも重要な取り組みの1つだ。バンダイナムコネクサスでは、組織立ち上げ当初より「組織マネジメントの責任者」「データ活用の品質責任者」「分析方法と技術の品質責任者」の分業体制を確立している。
この2つの取り組みにより、ビジネスに利益貢献できる分析組織を実現した。組織づくりで苦慮した点について、西田氏は次のように話す。
「いまでこそロール&レスポンシビリティが整っていますが、最初からきれいに設計するのは困難です。ここに至るまでには、さまざまな課題がありました。私自身、組織を設立したときのメンバーですが、きれいで大きな組織を作りたいが、いきなり大きくはできない、しかし成果を出すには大きな組織が必要、そのためには一定の成果を出さなければならないという矛盾した悩みを抱えていました」
組織設立時は、成果を出すためには、異なる成果のレイヤーの責任をバランスよく保てるスーパーマンが必要であると考えていたという。また、バンダイナムコグループは多種多様な事業を展開しており、どのようなスキルの技術者がどれだけ必要になるかの見極めも難しかった。そのため、技術面でもスーパーマンが必要であると考えていた。この課題に対してどのように取り組んだのか、西田氏は次のように話した。
「まずは分析のみでなく、ビジネス成果の創出にも責任をもつ”データストラテジスト”という職種をつくりました。データストラテジストは、分析に係る各技術分野で”ここまでできればOK”という現実的なラインを設け、幅広いスキルを持ちつつ、何か1つ突出したスキルを持つ人を採用しました。人材が集まり、見通しがたったら、アナリティクスエンジニア、機械学習エンジニア、データマネジャー、データエンジニアなど、組織をスピンアウトしていきました。当初は2組織の3機能でしたが、現在は6組織で8機能をカバーしています」(西田氏)。
直近の課題は、複数の職種や異なる成果レイヤーのそれぞれに責任をもつ人材が増えたことで、成果のどこに重きを置くかがばらばらになったことである。そこで、組織の価値観を管理するための各種フォーマットを整備することにした。プロジェクト進行中、一定のタイミングごとにフォーマットに沿って情報を整理し、その情報を「この責任領域の人がこの観点をチェックする」というプロセスを作り、結果を個々にフィードバックしている。
成果を出すための組織づくりには、採用活動も欠かせない。ここで忘れがちなことが「企業においてデータ分析で解決できる課題はどのくらいなのか?」という観点に立ち返ることだという。企業が抱える課題のうち、データ分析で解決できるのはごく一部である。そのうち、高度な分析技術を必要とする課題の割合はさらに低くなる。社内にある課題と照らし合わせた上で、必要な人材要件と採用規模を判断することが重要となる。
データ活用では1つの案件を進めるのも試行錯誤の繰り返し
講演の中で紹介された分析事例は、販売数を予測することで商品の在庫を減らし、廃棄費用の削減に貢献したというもの。入荷量ごとの販売数の予測を行ったが、データサイエンティストが「1万個売れます」と言っても、現場側は販売傾向や対前年比などの感覚があるので容易には信じてはもらえない。そこで、バリューチェーンの全ての担当者が納得する予測根拠を説明する必要があった。また、効果や利益貢献の礎となる破棄数と破棄費用を可視化し、最終的に想定利益貢献額のシミュレーションを行った。この分析の成果として、億円単位の利益貢献が可能だ。
また、本プロジェクトで発生した課題についても触れられた。そもそも、分析プロジェクトにおいて最初から要件どおりに進むことは少なく、分析中に実際の現象を目の当たりにして要件を変更せざるを得ないケースは多い。バンダイナムコネクサスでは、要件定義の段階で「要件を定義する」だけでなく、基礎分析も、ある程度のモデル構築も進めるという。つまり、要件定義の段階でPoC(概念実証)やPoV(価値実証)を行い、その結果を以って改めて要件定義をし、分析進行中に明らかとなるような課題を事前にあぶり出すのだ。本プロジェクトの課題は、バリューチェーンや業務プロセスの複雑さから、分析データ量に関するものまでさまざまだったが、チームのビジネス力と技術力の融合によって解決し、成果を創出した。
講演のまとめとして西田氏は、「データ分析で成果を出すためには、組織づくりとビジネス力が重要です。組織作りにおいては、基本的に何でもできるスーパーマンは少ないので、スキルセットはもちろんのこと、どの成果に対して責任を持ってもらうのかも明確にした上で人材を集め、バランスのとれた組織を作ることが必要です。組織としての成果を定義し、言語化することも欠かせません。ビジネス力としては、必要な情報を収集しながら業務理解を深め、ミクロ/マクロ視点を行き来しつつ、分析〜利益貢献までのストーリーを描く力、その上で、本当にやるべきことを見極める力が重要です。データ活用と一言でいうとかっこいいのですが、1つの案件を進めるのも試行錯誤の繰り返しで、実際に成果を出し続けるために日々奮闘しています。苦労しながら作り上げたわれわれの取り組みが、皆様の参考になれば幸いです」と話し講演を終えた。
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