伴走型データドリブン運営で継続的な顧客体験向上とビジネス価値創出を推進する日本生命グループ:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
日本生命グループが2019年〜2023年にて推進した「デジタル5カ年計画」では、単なるデジタル化ではなく、営業フロントや事務領域、人材育成を含めた全領域で、データ×AI活用を着実に推進。2024年度から新たにスタートした中期経営計画では、「DX推進プロジェクト」を進め、デジタル社会に迅速に対応し、サステナブルな事業運営に貢献することを目指している。
同社では現在、年間20から30のデータ利活用プロジェクトが企画・遂行されている。各プロジェクトは、Problem(問題)、Plan(計画)、Data(データ)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)のPPDACフレームワークにより、企画段階から分析結果を読み解き、解釈するまで、ビジネスとITが一体となって運営する「伴走型データドリブン運営」により推進されている。この伴走型データドリブン運営のプロジェクトにおいて、大きなポイントとなるのが、グループ会社のニッセイ情報テクノロジーの存在である。
佐藤氏は、「データ分析プロジェクトを実施するときに、もっとも時間がかかるのは、分析設計をしてデータを集め、蓄積、加工するフェーズです。このフェーズがなぜ大変かといえば、システムが無数にあり、どこに、どのデータが保管されていて、今回のプロジェクトに適したデータの抽出をするための現状調査の難易度が大変高いためです。この取組みを長年一緒にシステムを作ってきたニッセイ情報テクノロジーのメンバーと実施する体制を確立し、プロジェクトの企画段階からお互いに必要データを検討・摺合せし、着実に対応することが、プロジェクトがうまくいく秘訣です」と話す。
スーパーデータサイエンティストだけでは伴走型データドリブン運営は進まない
日本生命グループが、2024年4月から進めているDX戦略には、大きく分けて、保険事業と保険周辺事業の2つの領域がある。保険事業の領域では、データ×AI活用により業界随一の顧客体験(CX)を創出することを目標とする。一方、周辺事業の領域では、ヘルスケア領域でデータ×AI活用の取り組みを進めており、欧州で開催された保険/ヘルスケアのイベントで分析結果を発表するなどしている。
「オンラインコミュニケーションのデータなども解析しながら、より質の高いコンサルティングや教育の均一化などに取り組むことで、より一層お客様に信頼される会社として保険事業を進めていく計画です。また保険周辺事業では、データ×AIを活用した新しいサービス開発が進んでいる状況で、保険事業と保険周辺事業を融合し、安心の多面体としての企業グループを目指していきます」と佐藤氏。例えば、保険周辺事業では、企業と協力し、健康保険組合の特定健診データやレセプトデータを活用することで、企業や保険者における健康増進の取り組みを、分析から予防策までトータルに支援するサービスを提供するなど、企業として目指す健康寿命の延伸の分野においてもデータを活用していく。
当然ながら企業がその事業の価値を高めていくためには「人」が欠かせない。大熊氏は「高度な技術や知識を持ったスーパーデータサイエンティストがひとりだけいても、伴走型データドリブン運営が進むわけではありません。ITへの理解はもちろんのこと、日本生命の業務を理解していることも必要です。現場のデジタル化を伴走支援し、各部門でのデータ×AI活用を推進できる好奇心のある人材の育成も進めています」と話す。
「経営陣からは、もっと野心的な目標にもチャレンジしてほしいと言われています。データ分析の成果が少しずつ進んでいることは評価され、組織も大きくなっていますが、ビジネス変革と言えるほどのインパクトはまだもたらせていません。今後もAIなどの先進技術に関する情報を収集しながら、さらにデータ×AI活用に取り組み、DX戦略を進めていきます」と佐藤氏は話している。
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
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