ビジネスリレーションシップ・マネジメントでビジネスアナリシス・コンピテンシーを強化する:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(2/2 ページ)
さまざまな組織でビジネスリレーションシップ・マネジメントの活動が推進されているが、それは、ステークホルダとのパートナーシップを強化し、組織的文化を作り、価値実現を推進するビジネスリレーションシップ・マネジメント能力の向上で、より高度なビジネスアナリシス活動を実践するための試みだ。
望ましい文化に進化させる
開発組織が、言われたことをこなしていこうとする受け身の組織から、こうした強化されたパートナーシップ関係を持つ組織に変わっていくためには、組織のチェンジマネジメントが求められます。それゆえ、BRM活動は、組織の文化を進化させるための活動が重要と考えています。
例えば、使う言葉一つとっても重要です。「それはビジネス側の問題」ととらえるのか、「それは私たちの問題」ととらえるのかでは、大きなマインドセットの違いがあるとともに、それが私たちの振舞いに表れてきます。
組織の文化に影響を与えるには、ストーリーテリングが効果的です。私たちが目指している姿をもとに、私たちはその望ましい姿を他の人に共感を呼ぶ形で語り続け、聞き手が望ましい姿に対する自らの物語を創造できるように助けていきます。
そして、望ましい行動を強化するため、望ましい行動が何かを明確にするとともに、リーダーやインフルエンサーが実例を行動で示していくことが重要です。組織の継続的、漸進的な行動変容に影響を与え続けることで、新しい文化として組織に定着していくのです。
ビジネス価値創出にコミットする
BRM活動は、実際のソリューションの開発そのものを行う活動ではなく、またビジネスオーナーとしての活動でもありません。それゆえ、BRM活動は、ビジネス組織と開発組織の間で、新しいビジネス価値の創造を推進し実現することが、主たる役割になります。
多くの事業組織において、プロジェクトやプロダクト開発を行った時に、最初に企画されたビジネス価値の実現を最後までフォローアップするのは誰かという問題を抱えているのではないでしょうか。BRMを役割として定義している組織では、BRM人材が、組織でのアイデア形成の段階から運用にいたるまでのすべてのライフサイクルで、価値実現という観点から関わっていきます。そうであるならば、ビジネスアナリストと何が違うのかと思う方もいると思います。
こうしたBRMの役割はプロジェクトのフェーズを超えているため、プロジェクトの現場でビジネスアナリシスを実践している人材よりもシニアな目線や視野を必要とします。海外では、ビジネスアナリストをプロジェクトレベルの役割として限定的に定義する組織もよく見られ、こうした組織においては、ビジネスリレーションシップ・マネジャーは、ビジネスアナリストより上位の役割として定義されます。
また、ビジネスアナリストより上位の役割として、ビジネスリレーションシップ・マネジャーとビジネスアーキテクトが存在することもあり、両者で役割を分けながら連携して活動している場合もあります。事業会社の情報システム部門のようなシェアードサービス部門で言えば、最も上位のBRMの役割を担うべきはCIOだとも言えます。
ビジネスリレーションシップ・マネジメントは、すでにグローバル企業では実践されているプラクティスであり、知識体系としても整理されている領域です。ビジネスアナリシス活動を、より高いパートナーシップの下でより高い付加価値を生み出していくものにするためにも、重要なスキルとプラクティスと言えます。また、組織の中で、より明確な責任と枠割モデルをデザインするために、ビジネスアナリストとビジネスリレーションシップ・マネジャーの役割を分けて定義することも有効な手法と考えられます。それぞれの組織のコンテキストにあわせて、最適な形でBRMのスキルとプラクティスを活用していくことが、組織力強化のために重要と考えます。
著者プロフィール:塩田宏治
株式会社クリエビジョン代表取締役
IIBA認定CBAP(R) (Certified Business Analysis Professional)
BRM Institute認定BRMP(R)(Business Relationship Management Professional)
Open Group認定TOGAF(R) Enterprise Architecture Practitioner (TOGAF(R)10)
Open Group認定TOGAF(R) Business Architecture Foundation
米国PMI認定PgMP(R)(Program Management Professional)
米国PMI認定PMP(R)(Project Management Professional)
Scaled Agile認定SAFe(R) SPC(SAFeR Practice Consultant)
【略歴】
- NTTデータ、ソニーを経て、独立。プロジェクトはモノを作るだけの活動ではなく顧客とビジネスの価値を生み出すチェンジ活動であるという信念のもと、プログラムマネジメント、ビジネスアナリシス、ビジネスアーキテクチャやエンタープライズアーキテクチャ、エンタープライズアジャイルなどの専門領域の経験と知識・スキルを活用し、顧客のビジネスおよび組織のトランスフォーメーション活動を支援し続けています。
- IIBA日本支部理事
- Issa日本支部アドバイザリーボード
- 経済産業省 ビジネスアーキテクチャ人材の育成に関するタスクフォース 委員
- 北海道大学非常勤講師
(株)クリエビジョンのサイトからビジネスリレーションシップマネジメントの紹介をしています。
BRMP(R) Textbook (Japanese): Japanese Kindle版がアマゾンで販売されています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ビジネスアーキテクチャで変革のビジネスアジリティを実現する
- ビジネスルールと意思決定の自動化
- ビジネスプロセスマネジメントのこれまでとこれから
- ビジネスアナリシスは誰もが使える思考と行動の基盤――ビジネスアナリシスの原点は日常生活の中にある
- 重要な経営課題を デジタルで解決するために――ビジネスアナリスト(BA)ならデジタルを活用した解決案を提案できる
- DX推進・DX人材育成手段としてのビジネスアナリシス実践例
- 日本で生まれたBA方法論 RDRA
- 日本で生まれたビジネスアナリシス方法論:GUTSY-4
- 日本で生まれたBA方法論 匠Method
- ビジネスアナリストの人材育成
- 要件定義をツールで行なう:ビジネスアナリシスツールの紹介
- 戦略と実行の橋渡し、ビジネスアーキテクチャの役割――デジタル時代を生き抜く、企業の新しい羅針盤
- プロダクトオーナーシップ とは:POA入門
- データードリブン経営へ向けて:BDA入門
- アジャイルとビジネスアナリシス
- ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(後編)
- ビジネスアナリシスの知識体系BABOKガイドとは(前編)
- なぜDXにおいてビジネスアナリシスが必要なのか
- アイデアとソフトウェアが世界を変えるデジタルの時代こそIT部門が活躍すべきとき――IIBA日本支部代表理事 寺嶋一郎氏
