ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート
企業、役員を対象とする日本版司法取引――「攻め」と「守り」が制度の肝(2/2 ページ)
その後、捜査機関から、弁護人に対して、供述や証拠の提供が要請される。捜査機関は、聴取した供述や提出された証拠の内容について、合理性や信用性などを吟味し、他人の犯罪の有罪立証ができる、役立つと判断すれば、弁護人に対し、刑事処分の軽減などを提示する。これでお互いの利害が一致すれば合意が成立し、一致しなければ不成立となる。
「合意不成立となった場合、捜査機関は協議で示された供述や証拠をその後の捜査で使うことはできない。ただし、当局が、他の人から同じような供述を得たり、同様の証拠を入手したりすることは妨げられない。一方、合意が成立した場合、検察官は、他人の裁判において、合意の内容を明らかにしなければならない」(熊田氏)
想定事例1:一企業内における不祥事の場合
A社で不祥事が発生し、社員が逮捕された。早速、会社がその社員から聴取したところ、自分の不正だけでなく、会社のトップの不正についても話をした。会社のトップの不正について、当局は関知していなかった。このときA社としては、どのように対応すべきなのだろうか。
「A社としては、まずは、その不祥事が日本版司法取引の対象となる犯罪かどうかを判断することが必要になる。その社員の不正行為はどのようなものか、トップの行為・関与はどのようなものか、それにより会社も処罰されるのかなどを明確にしなければならない」(熊田氏)
想定事例2:複数企業における不祥事の場合
B社、C社、D社の幹部らが価格カルテルを行っていた最中、C社が別件で捜査を受けた。そこで、B社が内部調査を行ったところ、ある支店長と社員が価格カルテルに関与していることが判明した。このように複数の企業が関与している不祥事の場合、B社はどのように対処すべきなのだろうか。
一つには、B社として、他社よりも早く罪を認め、司法取引により会社に対する刑事処分の軽減ないし免除を求めることが考えられる。このとき、B社の支店長や社員も、個人として罪を認め、他社の犯罪行為を含めた全容を供述することで、刑事処分の軽減などを求めることができる。熊田氏は、「こうした事案は、すでに発生している」と語る。
「会社の信用や価値をできるだけ損なうことなく難局を乗り切るにはどうしたらいいか、刑事処罰を免れるために何をすべきかを第1に考え、時として、厳しい判断を下すことが必要になる。ただし、司法取引が成立するには、想像以上に高いハードルがある。相当の協力をしない限り、恩恵を受けることはできないことを理解しておくべきである」(熊田氏)
他人・他社に引っ張り込まれる危険性もある
日本版司法取引は、対象犯罪が幅広く、立件が比較的容易な犯罪もあるので、捜査当局としては使い勝手のよい制度である。他方、企業にとっても、司法取引の使い方として、いろいろな場面が考えられ、受けられる恩恵もさまざまである。熊田氏は、「“攻め”と“守り”が日本版司法取引の肝であり、難しさでもある」と語る。
この点、他人や他社に引っ張り込まれる危険性もあるので、防御することも考えておかなければならない。会社として、役員などの個人を守るのか、糾弾するのか、どのような判断を下すかも重要なポイントである。そのためには、早期かつ迅速な調査により全容を把握することが必要不可欠となる。また、弁護士への依頼体制を確立しておくことも大切である。
「日本版司法取引は、初めて導入される未知の制度であり、当局側も手探りの状態である。従って、今後どのような事例で適用されるか予測がつかないところもあるが、役員個人として、あるいは会社として、不祥事が起きた際には、司法取引に巻き込まれていくことがある、状況によっては有効に活用することも考えなければならないということを、まずはしっかり理解しておくことが必要である」(熊田氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「CISOは1人の経営者たれ」――ログの先の人を思う、LayerX CISO 星氏
-
2
「人間洗濯機」が高齢者施設に 福祉の現場に万博技術導入 人手不足解消や産業成長に期待
-
3
第52回:「管理」する時代は終わった──AI時代、マネジャーに残された本当の仕事とは?
-
4
どの区立中からも通えるオンライン将棋部発足 休日はリアル、プロ級も指導 東京都大田区
-
5
森ビルが挑む、DXを通じた「ヒルズライフ」の充実とコア領域の内製化
-
6
明和電機が愛車で全国47都道府県を駆け巡る、「UMEツアー2026」が開催中
-
7
高島屋・村田善郎社長 挑戦続けるアバンギャルドな百貨店 ベトナムや新型SCに重点投資 My Vision
-
8
「その100時間は、何も生み出していない」――認知科学者・堀田創氏が斬るリーダーの"見えない疲れ"
-
9
ITmedia エグゼクティブ勉強会スケジュール
-
10
「みどりの窓口」もAIに…音声で対話 JR東日本が実証機を公開、大宮・立川で実験へ
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー