できるリーダは、時には「勇気を持ってウソをつく力」と「相手のウソを見抜く力」2つの力が必要になる。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。
あなたはウソをついたことがありますか?
この問いに対して、「いいえ」と本気で答えた人は、以下を読む必要はありません。でも「いいえ」と本気で答えた方は仕事ができなくて、つまらない人でリーダーになることは一生できないでしょう。
逆に若干後ろめたい思いをしながら、「はい」と答えた人は、多分普通の人です。仕事ができる人もいればそうでない人もいて、環境によって毒にも薬にもなる人です。
私がリーダーになる、エグゼクティブになる可能性が高いと思う人は、「いいえ」と断言して答えながら、実際にはウソをついたことがある人たちです。
ビジネス書の有名な経営者やリーダーの自著や伝記では、経営の重要判断を求められる時、商談のポイントでの描写で「私はできますと答えた。ただしその時、その当ても自信もまったくなかった」というようなシーンが、これでもかというほど出てきます。そして、その後課題を乗り越え、大成功するという描写が判を押したように続きます。
うまく行ったから良いようなものの、商談相手やビジネスのパートナーとしては、これはたまったものではありません。当てもなく、自信もないのに、できると言われて、時間やお金を彼らに注ぎ込まされてしまったのですから。でも、彼らはそれを自慢するかのように自分の本に書いています。
つまりウソでもなんでも成功すれば、それは誰にも迷惑をかけることにならず、むしろ武勲となるのです。彼らが素直に「当ても自信もないですが、やらせてもらえませんか?」と言っていたら、著名になることもなく名経営者と賞賛されることもなかったのです。
そして、ウソをついて、誰もがWIN-WINとなった事例の裏では「できます! やれます!」という言葉を信じて出資したり、商品を卸したり、仕事を任せた会社が、そのウソで多大な被害を被っています。
だから、できるリーダー、エグゼクティブパーソンになるには、時には「勇気を持ってウソをつく力」(もちろんそのウソを後から本当にできる力が必要)と「相手のウソを見抜く力」という2つの力が必要になるのです。
2014年4月に発売された拙書「ヘッテルとフエーテルとみにくいアサヒる(※1)の子 お金のために平気でウソをつく人たち」では、そういったウソの歴史を「アサヒる」というネットスラングを使って、モノガタリのオブラードに包んで紹介しています。
誰もが知っている企業が、どんなウソを消費者についてきたのか? どんな風にだまされてきたのかを知っておくことはとても重要です。
契約に支払義務が明示してあってもその支払額を減らすためのウソを交えた交渉方法とは?
法外にモノを安く仕入れて、高く売るためのウソのコツは?
自分でルールを作れる立場から、どういう数字をウソでもってくれば、それはお金に代るのか?
お金を少しでも払わないために、どういうウソを交えて裁判すればいいのか?
といったことを分かりやすく寓話という形で書いています。
ウソは見方を変えれば、マーケティングの一環です。許されるぎりぎりの範囲まで、自社のイメージを、自社の製品のイメージを良く伝えること。心理学や統計学を使って、信頼される色やパッケージを考えることと同じです。それらの中には表現によって、どうとも受け取れる表現がたくさんあります。
こう書くとそんなことまでしたくないと考る人もいるでしょう。でも、車にひかれる交通事故があるからといって、われわれが車の利用を止めることができないように「嘘も方便」なのです。なにかを成し遂げるために清濁併せ呑む考えで、やれるべきことはやるべきなのです。そのために、社会的に許される範囲の「ウソ」について学ぶべき必要があるでしょう。
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明治学院大学 経済学部准教授