人が育つ企業に共通する上司像とは?:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
人を尊重する会社は業績も向上する。部下に愛情を注ぎ、仕事へのチャレンジを喜びとする魅力的な上司になろう。
アルプス電気でもサイバーエージェントでも求められる上司力とは?
このような状況下、経営の一端を担う上司には、当然、業績の向上が求められる。短期的な利益を追求せざるを得ない状況に追い込まれる一方で、部下を育て活かし、組織力をあげるのにはどうしても時間がかかる。「業績向上」と「人間尊重」は相容れないのではないかと感じる人も多いだろう。「半年で業績を上げろ」と言われれば、「仕事ができない部下の首を切って人を入れ替えたほうがいいのではないか」という思いが頭をかすめる気持ちも理解できる。
しかし、少子高齢化で労働人口が減少していくなか、「今、仕事ができない」というだけで人材を切り捨てていては、リーダーとして大きな成果を望めなくなっていく。何より「人」は感情の生き物であり、「物」や「金」のように簡単に動かせるものではない。だからこそ、わたしは、現場で求められる上司力とは「部下一人一人の適性を踏まえて役割を与え、育て上げ、共通の目的に向かうチームの力を高め、個人では達成できない結果を導き出す力」であると、研修やセミナーを通じて伝え続けている。現場の上司には、多様な部下たちと「人」として向き合い、育て活かすことが求められている。
『部下を育て、組織を活かす、はじめての上司道』(アニモ出版)を書くにあたっては、あらためて多くの企業の皆さんに、現場上司の在り方について取材した。特に、アルプス電気、オウケイウェイヴ、サイバーエージェント、東京エムケイといった、人材育成に定評のある企業の人事責任者や現場管理職の一言ひとことは、説得力に満ち満ちていた。
「部下に信念や思いをどう伝え、信頼関係をどう作るか」「一番大切なのは、上司が部下に接するときに愛情を示すこと」「現場を知らなければ管理はできない」「自分なりのビジョンを絶対に持っていてほしい」……。驚いたのは、業種も規模も成り立ちも組織のカルチャーも異なる企業にもかかわらず、求められる上司像には共通項が多かったことである。本の巻末に取材・対談の模様を収録しているので、ぜひご覧いただきたい。
わたしの結論は、これからの時代の上司力のベースは、「愛他主義」と「共感を呼ぶ情熱」である。「愛他主義」とは利己・利他といった損得の世界を超越し、部下や顧客に愛情をもって接することである。「共感を呼ぶ情熱」とは、組織が担う仕事、顧客への貢献を誰よりも本気で考え実践する姿勢から生まれるものである。過去においても優れたリーダーが兼ね備えていた普遍的な真理ではあるが、ダイバーシティ化する職場においては、より一層求められるようになってきている。また、この本の執筆を通じて、あらためて「人間尊重」は必ず「業績向上」へとつながるという確信を得た。
本書は、困難を極める環境の下、上司として新たな一歩を踏み出す皆さんの力になればとの思いで執筆したものだ。時代背景を踏まえ、初めて部下を持つ人が一段ずつステップを踏みながら“上司力”をつけていけるように構成している。上司の仕事は、つらいこともたくさんある。しかし、組織を率いて大きな仕事を達成する喜びや、成長していく部下の姿に心が震えるような感動がある。上司とは、一度でもその醍醐味を味わうとやめられないほど魅力的なものでもあることも記しておきたい。
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著者プロフィール:前川孝雄
コミュニケーションを鍵にした人材育成コンサルティングの(株)FeelWorks代表取締役。1966年兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学経済学部、早稲田大学ビジネススクール・マーケティング専攻卒業。リクルートにて「リクナビ」「就職ジャーナル」「ケイコとマナブ」「好きを仕事にする本」「Tech総研」など史上最多の就・転職・キャリア関連メディア編集長を歴任後、2008年に起業。多様な働く人々の価値観に精通した知見を活かし、立場の違う人間同士の「絆」をつくり、人と組織に「希望」をもたらすことを主眼に、企業・団体などの人材育成・組織活性化にあたる。
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