企業人は倫理に違反しやすい宿命にある! “マネジャー版 ヒポクラテスの誓い”のすすめ:生き残れない経営(3/3 ページ)
企業経営者はしょせんプロフェッショナルではない。だから企業では不正行為が抑制されることがなく、反倫理的事件の発生が少なくない。なぜ企業人は、道徳心を失って反倫理的行為を犯すことになるのか。
自分も他者も欺かない
その上で第3に、リーダーは自己コントロールできなければならない。「倫理基準を下げようという誘惑に駆られた時には、自分に誠実であるように厳しく求めなければなりません。道徳的であるとは、自分も他者も欺かないということなのです。」
そのための方法として、(1)「折に触れて鏡に向かい、自分の行動は自分で納得できるものかどうか自問自答する」。(2)「他者のお手本になると思わざるをえないような人物や経験」から「積極的かつ定期的な感化」が得られる。(3)「抗ウイルス性」と呼ぶ方法だ。エンロン・スキャンダルの後でアーサー・アンダーセンが破綻したとき、他企業の監査役たちが己を見直したように、「反面教師として教訓を引き出す」。
(4) それでも自己欺瞞に駆られようとするときの客観的物差しは、「知識が豊富で率直な人に意見を仰ぐこと」、「例えば、自分のしていることを母が知ったら、どう思うだろうかと、自問する」ことだ。(H.Gardner ハーバード大教授)
さらに第4に、具体策だ。(1)何よりも、社内研修・OJTなどを通じて反道徳的行為を排除し、企業倫理を絶対守るという考え方を全従業員に刷り込み、企業文化にまで昇華させること、(2)それに反する人材は冷徹に退職・交代させること、(3)反倫理的情報は隠蔽されがちなので、情報の透明性を高めること、これらができるのはトップを置いて、他にない。
いずれにしろ、経営陣の姿勢次第だ。しかし、現代経営者は社会で最も信頼されていない部類に入るといわれる。「社会の信頼を回復するために、ビジネス・リーダーたちは、株主への責任を果たすこと以上に、一市民として、また一個人として組織内の管理人としての義務を果たすことに尽力するに当たり、みずからの役割について見直す必要がある。言い換えれば、経営者という仕事をプロフェッショナル化する時が訪れているといえる。」
「真のプロフェッショナルには、通常、行動規範があり、そのような規範の意味と社会的意義は正規の教育のなかで教えられる。また、これらのプロフェッショナルのなかから信頼の厚い人物たちで構成される職能団体が、コンプライアンス(遵法義務)を監視する。プロフェッショナルたちはこのような行動規範を通じて、自分たち以外の社会構成員との間に暗黙の社会契約を交わす。」(R.Khurana、N.Nohria各教授)
医者や弁護士が、その例だ。彼らは正規教育を受け、国家免許を必要とし、職能団体を構成して、自らを監視し、社会の信頼を得ている。医師には、古来より「ヒポクラテスの誓い」があり、その専門職に従事する者が進んで受け入れる理想と社会目的を掲げている。
R.Khurana教授らが提唱し、経営者版「ヒポクラテスの誓い」を提案しているように、今や経営者もプロフェッショナルを目指す時だ。経営者も権威ある正規教育を受け、国家試験を課せられ、自律的職能集団を形成すべき時を迎えているのだ。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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