「なぜ、コンサルティング業が存在しているのか?」――社内コンサルタント的な働き方のススメ:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
コンサルティング会社は不思議な業態だ。クライアントが自分でできることを、わざわざお金を払って外部に依頼する。その存在理由とは。
スタイルによる差別化
それでは、わが国の経営コンサルティング業界が下火になっているかというと、そうではない。むしろ経営戦略コンサルティングのアウトプット、成果に対する知見が世に広がるに連れて、わが国でもコンサルティング業界は成長を遂げている。それはなぜか?
ひとつには、グローバリゼーションという世界的に大きな波が、その成長の原動力となった。知らない国、知らない市場への展開は、良き水先案内人としての知見にあふれる各国に事務所を展開する大手コンサルティング会社にビジネスチャンスを創出した。
しかし、それだけではない。著者は、大手、一流コンサルティング各社に共通に観察されるコンサルタントとして働くスタイル、すなわち、強固な行動規範が、大きな業界の存立理由だと考えている。マッキンゼー、BCG、ベインを始めとする大手コンサルティング各社で働くと痛感するのは、各社の定める行動規範の貫徹の度合いの強さである。文化を作る以上に、日常の空気を作っていると表現したほうが当たっている。また、各社で行動規範の目指すゴール、方向性に大きな違いは無いものの、各社が信じる独自性へのこだわりは強く、結果としてずいぶんと違うカルチャーを作ることになっているように感じる。
行動規範。それは、クライアントの組織が自然体では、どうしても陥りがちになる組織的な問題を、外部のコンサルタントの立場から回避する役割を果たす。もって、クライアントにとっては、効率的に組織問題から自由な回答を得ることができる。
顧客の視点、客観性、ファクト主義、因果関係、クライアント企業の利益
そうした、各社の行動規範の代表が、「顧客の視点」、「客観性」であろう。これは、どうしても組織が大きくなると陥りがちになる症状である「内向き志向」への意識的アンチテーゼとして機能する。また「ファクト主義」、「因果関係」という分析の基本的スタイルも、特定の人や組織の声の大きさや組織の習慣、思い込みなどから自由であるべきという思想の現れである。
その根っ子は、クライアントとはコンサルティング仕事を発注してくれた特定個人ではなく、あくまでもそのクライアントの会社であるという基本思想に立脚している。そうした立場を貫徹することで外部のコンサルタントは、社内の改革とは違う立場で提言をすることができる。社内の暗黙の前提、見えない聖域にも挑戦できる。それが大きな価値として認められて、この業界が伸びてきたとも考えられる。
翻って考えれば、これは企業内部で働く人たちの働き方にも示唆を与えるのではないだろうか?かつては、組織のピラミッドがきれいに作られ、年功序列の色の強かった時代の日本企業は、組織に社員がぶら下がるという悪弊も生んだものの、幹部、中堅社員がのびのびと自社の将来について議論をする風潮を許すというメリットをもたらしていた面もあった。
成果主義は競争を促した反面、上司、組織の意向に敏感にならざるを得ない中堅社員を量産し、結果として健全な批判精神、自社の将来をあくまで社の利益という視点から考える習慣を弱めてしまったのかもしれない。逆に、これからのわが国企業の幹部に求められるのは、組織の都合や、組織の癖、病からフリーな立場で、全社の目で考え、行動し、困難を突破する能力なのかもしれない。外部のコンサルティングがなぜ流行るのか。その分析には、次の時代の経営幹部の役割、行動の仕方のヒントがあると思う次第である。「中堅社員よ、コンサルタントの目線で働け、活躍せよ」。
著者プロフィール:山本真司(やまもとしんじ)
1958年東京都出身。1982年慶應義塾大学経済学部を卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行後、1985年シカゴ大学経営大学院(ビジネススクール)留学。1987年MBA with honors(栄誉MBA修士号)を取得、全米成績優秀者協会会員となる。1990年ボストン・コンサルティング・グループを経て、A.T.カーニー極東 アジア共同代表、ベイン・アンド・カンパニー東京・代表パートナーなどを経て、2009年独立。現在、経営コンサルティングを営む、株式会社山本真司事務所 代表取締役、立命館大学経営大学院客員教授。他に、慶應義塾大学健康マネジメント大学院、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて、非常勤講師としてスポーツ・ビジネス・マネジメントを 教える。静岡県サッカー協会評議員。
「40歳からの仕事術」(新潮新書)、「20代仕事筋の鍛え方」(ダイヤモンド社)、「会社を変える戦略」(講談社新書)「20代・30代のための『自分成長戦略』設計書〜流行りのスキルアップ術に踊らされない〜」(日経BP社、携帯 電子書籍、2010年4月発売)、「新装版 30歳からの成長戦略」(PHP研究所)、「35歳からの『脱頑張り』仕事術」(PHPビジネス新書)など著書多数。
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