検索
連載

世界経済は回復方向だが藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)

世界の金融関係者が固唾を呑んで見守っていた欧州の債務危機も、ギリシャの「秩序あるデフォルト」で山を越えた。しかし実際には、金融機関の危機は残っている。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

日本は成長戦略が描けるか

 かつてなら、日本が世界経済における牽引役になっていてもおかしくはないが、現在の日本にそれだけの実力はない。ただ今年前半というふうに限れば、巨額の復興予算があるため2%程度の経済成長は見込めるだろうが、問題は後半になって息切れしないかどうかだ。

 それだけではなく、日本の場合は、政治が流動化するというリスクもある。何といっても消費税の増税法案、それに赤字国債の関連法案が成立しないという状況に追い込まれたら、野田首相も解散を余儀なくされる可能性がある。その時期によっては自民党は谷垣総裁に代わる総裁が選出されているかもしれない。そこに名前が挙がっているのが、林芳正、石破茂、石原伸晃の各氏だ。誰がなっても難しいとは思うが、少なくとも谷垣総裁よりはビジョンははっきりするはずだ。

 民主党が総選挙に踏み切れば、負けることははっきりしている。問題はどの程度負けるかなのだが、相手が谷垣総裁なのか、それとも他の誰かなのかによって、議席の減り方が大きく変わる可能性もあるだろう。さらには大阪維新の会がどれくらいの候補者を立ててくるかによっても状況はずいぶん変わる。衆議院を任期満了まで引っ張れば引っ張るほど、維新の会のファクターが大きく膨らんでくる可能性が高い。それよりは時間をかけないで今年に総選挙したほうが、まだ状況を読みやすいという決断もありうるだろう。

 こういった政治の混乱は、企業活動にとってはマイナスだ。すでに超円高を背景に海外に生産拠点を移す企業は多い。円高がやや緩和されてもその流れは大きく変わらない。TPP交渉に日本が加わるかどうかもはっきりせず、円高がどうなるかもはっきりしないという中では、企業の決断は一つしかない。現在の段階で有利な状況が見込め、製造業のインフラがある程度整っている国に行くしかない。その時にもちろん日本に残るという選択肢はもはやない。

 日本としての成長戦略が描けず、消費税増税が目前に迫り、かつその後にも消費税増税が控えていると考えれば、おカネをかけてまで企業が日本で操業を続けたいと考える理由はあるまい。そういったことを分かって消費税引き上げを議論してほしいものだが、民主党内も、国会も、前に進む議論はなかなか見られない。日本が抱える負債も巨額であるが、この政治リスクという負債も恐らく負けないぐらい大きいのである。

著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る