「デジタルという名の竜を飼いならせ!」──CIOアジェンダ 2014:Gartner Column(3/3 ページ)
デジタル・テクノロジは、既存の勢力をくつがえすほどの巨大な力を持っている。うまく扱えば強力な味方になるが、敵に回すと面倒な相手である。
2つの流儀を習得する
日本のIT部門は、システム開発手法というと、ほぼ100%がウォーターフォール型を採用している。日本(独自の)のウォーターフォール開発は、ほとんどが、機能要件凍結という儀式があって、それから何ヶ月も、場合によっては1年以上もリリースまでに時間を要することが多い。これでは。移り変わりの早いマーケットに身を置くフロント・オフィス部門からは見放されるのは間違いない。
実は、フロント・オフィス部門が新たにビジネス成長のためにITケーパビリティをアテにする際には特徴がある。一つは、先に述べたがスピードだ。市場は移り変わりが激しいが、それに併せてITケーパビリティを投入したいと考える。もう一つは、仕様が決まらないのである。何がしたくて、何をITに頼りたいのか、コンサルテーションしてほしいと考えているのである。
しかも、一度や二度、話を聞いたくらいで答えは出ない。例えるならば、製品開発や技術研究の思考・プロセスに似ていると考えた方が良いだろう。トライアンドエラーで、何回も繰り返しやってみながら、最適解を見つけていくような感じだ。これを繰り返すことにより、新たなデジタル・イノベーションを見つけていくのだと思えば、大きな間違いはないだろう。
で、話を戻すが、日本のウォーターフォール開発である。これの特徴は(1)仕様は決められるものである、(2)仕様凍結を宣言したら仕様変更を原則認めない、(3)仕様変更をお願いしたら、納期と金額が大幅に変わったりする。絶対的に揺るぎないバックオフィスの事務処理などは、仕様も決められるであろうが、フロント・オフィスサイドのアプリケーションには、明らかに不向きである。
今回のCIOサーベイでは、CIOが管轄するシステム手法のうち、ウォーターフォール開発を含めたリニア型開発手法が約半分で、アジャイル開発を含めた反復型開発手法、つまりノンリニア型を採用しているのが約半分であることが分かった。同じシステム部門の中で開発流儀を2つ持っているということである。日本は、ほとんどがリニア型の開発手法しか採用されておらず、ほんの一部分でノンリニア型を採用しているという結果だった。日本のフロント・オフィス部門が、海外に比べて独自のIT予算を外部に直接投資している比率が高い理由のひとつが、ここに垣間見られるのではないだろうか。
日本のCIO/IT部門は何をすべきか
いくつかのポイントはあるが、「デジタルという名の竜を飼い慣らす」ためには、本気でビジネス指向に徹するべきだろう。ガートナーは、10年以上もCIO/IT部門はビジネス指向になるように助言してきたが、結果は、IT予算の約3割をビジネス部門がIT部門を通すことなく直接投資しているのを見る限り、その助言はあまり聞き入られてはいないようだ。
「人はいない」「金はない」「時間もない」、おまけに、「勝手なことをフロント・オフィス部門がやっているだけで、迷惑しているのは、こちらの方だ」と聞こえてきそうだが、彼らは、マーケットやビジネス成長に素直に従っているだけで、本気でITリソースをビジネス成長に資するようにしたいならば、今までとは違う形で、お金や人が調達できるだろう。
このコラムでもITガバナンスについて述べたことがあるが、まだまだ「規則集」を作ることや、「言うことを聞かせること」と勘違いしている方が少なくない。ITの価値を最大化することを目的にした施策がITガバナンスであり、そのためにユーザやIT部門が協力しあう仕組みを策定することが要諦なのである。先に述べた「ポストモダンERP」は、機能仕様の見直しではなく、アーキテクチャの見直しであり、ビジネスにアジャイルという経営能力を得るための施策である。
こういうものに積極的に投資するためには、要員のスキルも必要だが、投資に関するコンセンサスを得ることも重要だ。そして、そのコンセンサスを得るというアクティビティこそが強いITガバナンスが有るか無いかによって、結果が大きく変化するのである。もちろん、ノンリニア型の製品開発や技術開発にも似たシステム開発プロセスでは、ユーザの関与は、従来のウォーターフォール型の何倍、いや十倍以上必要になるかもしれない。その関与を具現化するのもITガバナンスなのである。
そして、日本のユーザ企業が普通にやっている「丸投げ開発」も見直しが必要だ。海外には、「フル・アウトソーシング」などという言葉はない。しかし、意外なことに、国内ではよくこの言葉を聞く。これでは、「竜は飼い慣らせない」と断言できる。ビジネス方向に指向し、ITスキルも身につけ、スポーツで言えば足腰を鍛えることにも似たガバナンスを見直し強化せよと、「時間がない」現状に厳しい注文が相次いだが、絶対にしなければならないことだけを優先すれば、時間は必ず生まれてくる。そう決断するのは、実は、読者であるあなた自身であることを再認識していただきたい。
著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー
2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。
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