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怒ったって良いじゃないか――リーダーは怒りをエネルギーに転じよビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

最近、気になっていることがある。職場で怒鳴ったり、声を荒げる管理職は、絶滅寸前である。部下には怒ってはいけないのが、大きな流れになってきている。しかし、果たして、それで良いのだろうか。日本企業の競争力や活力の源である闘争心を奪っていないだろうか。

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 さて、それではどう怒ればいいのか。

 新入社員を含め若い部下を中心に怒るときの注意点を述べてみたい。

  • 怒っても、根に持ってはいけない。
  • 怒るテーマは一点で、過去のことを思い出して別のことで怒ってはならない。
  • 褒めるのと怒るのは同時にやらない。特に新人は、褒められたのか、怒られたのか分からず、困惑してしまう。

 上記はよく知られていることであるが、それ以外に職場で重要なのが、次のことである。

 まず、怒りの基準と怒り方を決めておく。「カチン」と怒りのスイッチが入ったら、一瞬、冷静になり、これは怒るべきかを決める。普段から、これをしたら怒る、怒らないという基準を設けるべきで、その基準は会社や個人の価値観、倫理観、行動基準がベースとなるはずである。組織で共有すべき価値観や理念に対して熟慮しておく必要がある。

 気をつけないといけないのが、就業規則である。規則違反を縦に「問答無用」と一方的に怒ると部下の反感を買うことがある。やはり個別に理由を確認し、吟味しないといけない。

 怒る基準が明確になれば、怒られる方にも理由が明確に伝わる。あるときは怒られ、あるときは許されると、気分で怒られているようにしか思えず、会社の価値観の伝承など怒る効果も半減してしまう。

 重要な会議や得意先の前で居眠りをしたとき、うとうとするだけで怒るのか、必死でこらえていれば許すのか。始業時間、待ち合わせ、会議などに遅刻をしたら、1回目で怒るのか、交通事情に関わらず怒るのか。また、会社の金に対するけじめも1円で怒るのか、1000円で怒るのかを決めておくべきである。

 次に部下には言い訳をさせる。部下がミスの原因と対策を口にし、それに納得したら、なるべく早く切り上げる。自分の怒りが収まるまで怒鳴りまくるのは最悪である。「昼ご飯をお腹いっぱい食べたのが原因で、得意先の前でつい、居眠りをしました。今後は、昼は腹八分目に抑えます。」と言い訳を始めたら、それを確認して許す。部下には、自分で解決策を考えるように促し、納得する答えが出るのを待つ。部下が萎縮して思考停止状態なら、明朝一番で解決策を考えるよう指示する。

 たまに自分の新人時代は出来なかったから、あるいは許されたからと言って、甘やかす上司がいるが、自分の過去のことは棚に上げるのが原則だ。時代が変われば規則も変わる。江戸時代の武士も明治になったら、刀を捨てた。もちろん、現在、自分が遅刻の常習者だったら、遅刻をとがめるのは難しいだろうが。自分に出来なかったことでも、時代が換われば守らせるのは当然である。

 また、優秀な部下でも必要なときは怒る。同じことをしても相手が違うと許すのは、公平ではない。怒る相手が決まってしまうと社内いじめである。例えば営業のエースでも重要な報告を怠っていれば、怒らなくてはならない。

 かつて、ある経営者が工場を視察していると工員がボルトよりも長いナットを締めているのを見つけた。これは彼の美学では許せない。同じ長さでないといけないのである。経営者は資材調達の責任者の部屋のドアを開け、いきなり頭をぽかりと殴った。殴られた方は何が何だか分からず、あっけにとられていたが、殴った経営者が泣いているのを見て、なぜか感動した。その後、役員に昇進した男は嬉しそうに、本田技研工業の創始者、本田宗一郎氏に殴られた思い出を何度も語ったという。

 怒るのはみっともないし、エネルギーを要する、そしてリスキーである。その結果、部下の不注意によるミスや不祥事に対して感情を押さえ込む努力していると、やがて部下の行動に無関心になり、部下を無視し、見限る管理職が増えてしまう。

 今、どのような理由があろうと部下を殴ることは許されないが、怒りを無理に抑え、部下を無視することは、愛情を持って殴るよりも遙かに残酷なことに思えてならない。

著者プロフィール:山口伸一

株式会社ラーニングモア 代表取締役

早稲田大学理工学部卒業後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)

森永就業入社、名古屋支店で営業の実務を経験後。本社でマーケティングと物流の実務を担当。 90年に住友銀行子会社の住友ビジネスコンサルテイング(現SMBCコンサルティング)入社。赤字だったセミナー部門の企画、運営、販売促進の業務を一手に担当。翌年、黒字化を果たす。以来、ビジネスセミナーを順調に拡大し、業界下位からトップクラスへの躍進に大きく貢献した。多くのヒットセミナーを発案し、大勢の有名講師を発掘、育成したプロデューサーとして実績を持つ。10年には、銀行系セミナー会社初の「定額制クラブ」を立ち上げ、年間700本のセミナーを通して中堅中小企業の人材育成に奔走する。研修講師としても、分かりやすく、実践的な内容にファンが多い。13年、退職し、初のセミナー会社のコンサルティングを業務とする株式会社ラーニングモア設立。

趣味は映画、読書(ビジネス書、小説からコミックまで)、食べ歩きなどインドア派。ビートルズのファン。映画は年間300本以上を観ることを目標としている。唯一のスポーツは、ジムで週に一度、5キロのランニングと水泳、さらに毎日、1万歩を歩くことを日課としている。

著書「入社1年目で頭角を現す人、沈む人」ぱる出版


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