市場で勝ち続ける新規事業を創るには〜事業仮説構築のポイント:視点(2/2 ページ)
市場環境が移り行く中で企業が持続的に発展していくためには、既存事業のみに依存せず、常に新たな事業の柱を構想、開発していくことが必要だ。
適社性の考察に有用なアプローチの1つが、過去の成功と呼べる事業、失敗した事業の要因を棚卸し、自社の「成功の方程式」をひもとくことである。自社の独自技術が生きる、強力な流通パートナーが活用できる、何等かの理由で競合が手を出したくない面倒な市場である……など、事業で勝ち続けられる理由はさまざまであり、かつ複合的なことが多い。
それを一般論ではなく、自社ならではの言葉で書き下してみる。それを今着目している顧客ニーズ・提供価値と照らした時に、自社の「成功の方程式」にのっとったものなのか、という目線でフィルターをかけてみるとよいだろう。
3、将来に渡って「勝ち続ける」道筋を描いた、時系列の戦略ストーリーに昇華させる
上述の視点から初期的な事業仮説が構築できたら、それをスナップショットではなく、時系列の戦略ストーリーとして立体感を持たせていく。
非常に簡略化して述べると、新規事業には大きく2つのハードルがあり、いずれの克服難易度が高いかは事業特性により異なる。1つ目が市場開拓のフェーズ。特に世の中にまだ類似製品・サービスがない事業の場合、いかに顧客ニーズを掘り起こしていくか、それをどのような顧客接点で実現していくか、という点をリアルに想定しておくことが必要である。
当該製品・サービスが真新しく、その有用性が顧客にとって自明でない場合は、例えば市場開拓にあたってコンサルティング営業や、そのためのノウハウを補完する販売パートナーが必要となってくるかもしれない。
次に、競争激化のフェーズ。市場が立ち上がってくると、当然競合も目をつけてくる。そうした中で持続的な競争優位を築くには、将来の想定競合の動きに対する対策がストーリーに組み込まれていなければならない。
つまり、想定競合は誰で、どのような戦いを仕掛けてくるか。それに対し、自社はどう差別化し、競争優位を持続させるのか。独自技術か、流通網か、はたまた事業展開のスピード感なのか。
そこまで徹底して問うことで、はじめて事業仮説としての良しあしが判断できる。市場参入のスピード感、顧客に対するプライシング、市場投入後の製品・サービスのアップデート内容、そのための必要投資額やそのタイミングなどは、全て想定競合への対策を念頭に置いたものでなくてはならない。
また、差別化が単一の強みにより成し遂げられることは少なく、複数の強みの組合せが必要となってくる点や、それを必ずしも自社で完結せず、外部活用も視野に検討すべき点も考慮すべきだ。
4、おわりに
以上で見てきたように、新規事業仮説の構築にあたっては、現地 ・現物での顧客ニーズの探索に始まり、適社性の考察を踏まえ、持続的な競争優位を見据えた時系列の戦略ストーリーにまで落とし込むことが必要である。これらは必ずしも直列的なステップではなく、各観点を行き来しながら仮説を進化させていく。
ただし、ここまではあくまで事業「仮説」にすぎない。このような仮説構築をスピード感を持って行った上で、構想した製品・サービスの有用性を実証実験(PoC)を通じて顧客に問い、柔軟にピボットしていく姿勢も重要だ。そのプロセスは決して生易しいものではない。専任の事業担当者が、いかに情熱をもって進めていけるか、という点も重要な成功要件になってくるであろう。
著者プロフィール
染谷将人(Masato Someya)
東京大学理学部物理学科、同大学院理学系研究科物理学専攻修了。
消費財・小売り、化学・素材分野や、イノベーション・新規事業・M&Aにかかわる戦略案件を中心として、グローバル・プロジェクトを数多くリード。クライアントワークの他に、ローランド・ベルガー東京オフィスの新卒及び中途採用担当マネージャーも務める。
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