銀行が成功事例を共有? 脱・内向きに取り組む金融データ活用推進協会:デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)
「内向き」や「閉鎖的」との印象が強い日本の金融業界にも変化の兆しがある。AIやデータの活用を推進すべく、業界横断で成功事例を共有し、隠れた人材を発掘する取り組みが始まっている。銀行、業界団体、議員秘書、デジタル庁職員という異色の経歴を持ち、金融データ活用推進協会の設立に中心的な役割を担った岡田拓郎代表理事にITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
「成功事例を作り、人材を発掘しても、課題は経営層のITへの理解が低いことです。そこで組織として、どのようなITの準備をし、人材育成やキャリアパスを構築するかを明確にするための材料、コンテンツを提供することが必要です。こうした取り組みにより、金融機関のデータ活用レベルを可視化し、業界全体のレベルアップが期待できます」(岡田氏)
さらに金融領域における生成AIのイノベーティブで健全な活用を促進することを目的に、生成AIワーキンググループを設置し、生成AIガイドラインを策定、2024年4月に公開する計画だという。
金融業界の未来は? AIで働き方は?
FDUAとして目指す金融業界の未来の姿について岡田氏は、次のように話す。
「金融業界は縦割りの業界なのですが、張り合ってばかりでは時代に取り残されてしまいます。そこで横のつながりを作ることで、金融業界に1%でも貢献したいと考えています。その1つの手段がAI・データ活用です。お客様にとって、お金の不安は人生において大きな課題なので、この課題を解消することが金融機関の社会的な使命です。そのためには、AI・データ活用が不可欠になります」
例えば、これまでのオーダーメイドの資産運用サービスは富裕層しか受けることができなかったが、AI・データ活用により、資産運用のパーソナライズが身近になり、誰もが最適な金融サービスをセミオーダーで受けることができるようになる。また生成AIの普及が進めば、消費者の行動も大きく変化していくはずだ。現在のように商品を自分で比較検討して購入するのではなく、AIにレコメンドされた商品を買う時代になるだろう。
「現状は生成AIにレコメンドされた商品を怖いと思う人が多いのですが、近い将来この壁を超える日が来ます。以前はECサイトで商品を購入するのは怖いと思う人が多くいましたが、現在はECサイトで商品を購入することを怖いと思う人は少なくなっています。ECサイトでおすすめされた商品を合わせて購入する傾向もあります。金融業界も同じで、生成AIによるレコメンドにより、金融商品を購入し生活を豊かにすることが期待できます」(岡田氏)。
AIは多くの人の仕事を奪うと懸念されているが、岡田氏は、「AIを使いこなし、何ができるのかを明確にし、必要な人材を巻き込み、目的に向けて進んでいく熱量のあるアウトプット型の人材を育成することで、今後の仕事も楽しくなるはずです。AI・データ活用をポジティブにとらえ、事務作業に追われる時間をAIに任せ、よりお客様サービスの向上に時間を費やすことで、働き方の改革につながると考えています」と話している。
聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
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