部下を持ったら必ず読む「任せ方」の教科書:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
「人間ちょぼちょぼ主義」人間の能力はそれほど高くはないため、何事かを成し遂げようとしたら他人の力が必要になる。ならば任せないかぎり、大きな成果を上げることはできない。
的確な指示を出すための4条件
上司が部下に指示を出すときは次の4つを明確にすると指示が的確に伝わります。
(1)「期限」を示す
いつまでにという希望を伝えた上で、期限の少し前に進捗状況の確認を忘れないように。
(2)「優先順位」を示す
部下の既に持っている仕事を比べ、優先順位をつけて、「任せる仕事」の時間枠を取ること。この中には価値の順位も含みます。例えばライフネット生命のウェブサイトを制作した時は、担当者にウェブサイトを作るうえで、私が重視しているポイントを序列をつけて(1)使いやすさ、(2)分かりやすさ、(3)SEO(検索エンジン最適化)対策、と伝えました。この時に(1)と(2)と(3)と並列して列挙すると部下は迷ってしまいます。
(3)「目的・背景」を示す
例えばプレゼン資料作成に関するデータを見つけてほしい場合、「プレゼンの目的は何か」、「どういう資料を作ろうとしているのか」、「どこに提出する資料なのか」などの背景を説明しないと部下は適切なデータを見つけることができません。
(4)「レベル」を示す
「完成品」を望んでいるのか「半製品」を望んでいるのか、仕事のレベル(質のレベル)を明確にします。仕事を任せるときは、「時間も、部下の能力も、有限である」ことを忘れてはいけません。
「権限の範囲が分かる」ということは、「誰が、どこまで責任を取るのか」が分かることと同義です。部下に仕事を任せるときには「権限と責任を一致させる」ことを忘れてはいけません。「任せる」ことは同時に「責任を持たせること」であり、私は「部下を育てる基本は、責任を持たせること」だと考えています。
プレーイング・マネジャーになってはいけない
日本の企業では、例えば「バツグンの営業成績を残した社員が、そのまま長のポストに就く」ことが、よく見られます。現場に出て、営業の仕事を続けつつ、管理職になる。いわゆる「プレーイング・マネジャー(業務を受け持つ管理職)」です。しかし私は「プレーヤーとしての能力」と「マネジャーとしての能力」は全く異なると思います。「プレーヤー」は自分の仕事をひたすら高め、80点を取れるように努力する能力が要求され、「マネジャー」は部下全員に合格点(60点)を取らせ、多少の不出来には目をつぶるという能力が重視されるからです。
つまり一番の近道はプレーヤーとマネージャーは違うということを自覚することです。もしプレーヤーとしても優秀であった人が、マネジャーになっても優秀だったとしたら、それは「プレーヤーとしての自分を捨て、マネジャーの能力を身に付けた」「プレーイング・マネジャーであることをやめ、マネジャーに専念した」からです。「そんなことを言われても、会社に両方期待されている」というマネジャーは、まずは「部下の仕事については、60点で満足する」習慣を意識してみると良いと思います。
いくつか著書の中から抜粋しましたが、まだまだ私は日本生命時代にお世話になった、元専務の森口さんにはかないません。はちゃめちゃな上司だったのですが、「人間、やろうと思えば何でもできるものだ」ということを教わった気がします。仕事がとてもでき、「上司としての感覚」(権限の感覚や秩序の感覚)に長けていました。「課長会」に出席した「課長代理」が何かを発言した時の話です。すると森口さんは「それは、課長の意見か、お前個人の意見か、どっちや。課長の意見をきちんと聞いてくるか、"お前に一任する"という委任状がないかぎり、課長会で発言する意味はない。お前個人の意見なら、黙っていろ!」と一喝したのです(これは権限の感覚として正しい)。他にもエピソードには事欠かず、マネジメントの多くを大先輩から学びました。
ライフネット生命には私と「親と子ぐらい離れた、さまざまなバックグラウンドを持つユニークな社員」が沢山います。私が彼らに仕事を任せているのは、森口さんのように、「誰に、何を、どのように任せれば組織が動くのか」ということを柔軟に考えているからです。ライフネット生命を「100年後に世界一の保険会社」にするために「性別、年齢、国籍を超え、さまざまなひと達の意見に耳を傾けて、60代の私ではカバーできない「多様性(ダイバーシティ)」を確保しグローバル社会にスピーディに対応して、少しでも早く目標に近づきたいと考えています。
理想のマネジャー像に近づけない、当たり前なのになかなかできない「マネジメント論」のジレンマに頭を悩まされている方に「人をどのように使い」「どのように任せて」「どのように組み合わせて」いけば強いチームが出来上がるのか、ということを考える際のヒントとして本書を手に取っていただけると幸いです。
著者プロフィール:出口 治明(でぐち はるあき)
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に準備会社を設立し代表取締役社長に就任、2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に商号変更。2013年6月より現職。
主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 発想をカタチにする技術――新しさを生みだすありきたりの壊し方
- 「ソーシャルスタイル思考」で人間関係のストライクゾーンを広げる
- 決算書がただ読めるだけのリーダー 使いこなせるリーダー、その違いとは?――リーダーの即決即断をサポートする「A4一枚決算書」活用術
- もてるリーダー、もてないリーダー――対人魅力研究からのアプローチ
- グローバル時代のビジネスリーダーに「アジアで働く」経験がなぜ必要か?
- あなたのメッセージが伝わらないのは「声」が原因かも!?――1日5分のトレーニングで「よく通る低い声」を手にいれよう!
- 9割の人ができるのに、やっていない仕事のコツ
- 「小さくても大きなことができる時代の到来」――究極的にスリムな組織のためのヒント
- 誰でもできる聞く力、パワーアップ作戦――最初の一言のセオリー
- 「ここ一番」に強い人は「相手の脳ミソ」で考えている
- 企業で働くにも「起業家」のように働くことが必要な時代
- 遊んでいても結果を出す人 真面目にやっても結果の出ない人
- 習慣づくりに必要なのは「具体化」と「行動のコントロール」
- 独自の強み「キラーコンテンツ」の作り方
- 2014年の新興国経済と日本経済を俯瞰して予想する
- あなたもついている!? ビジネスシーン3つの嘘
- 仕事を楽にし、戦略的に人生を生きるためのセルフマネジメント
- 性格がよくなるメールの書き方
- 憲法改正は、本質を踏まえた「乗り降り自由」の議論が必要
- 実力は後からついてくる。まずは、自己PR力で理想の自分を売り込め!
- アベノミクスによる金融緩和は国民の9割を不幸にする
- 声を変えれば、うまく話せる!――「声」の認知的不協和を解消せよ!!
- 「吉田松陰」から学ぶ「明治維新をつくったリーダーシップ術」
- 極端な「自前主義」が会社を壊す――「何をやるか」ではなく「誰とやるか」で物事は決まる!
- 「会社の老化は止められない」――組織の宿命をどう乗り越えるか?
- 負けない仕事術のススメ
- セミナーで、600万円以上をドブに捨てた経験から学んだ部下マネジメント
- ドラッカー教授の言葉を実践する。一言を実践する。
- 女性を活用できる上司になる
- 忙しい経営者が、時間の余裕を作るための「ちょっとしたヒント」
- あなたはこの人生で「お金」を選びますか、それとも「生きがい」を求めますか?
- アベノミクスは歴史の教訓から何も学んでいない
- 仕事の悩みはコミュニケーションから
- 「マネジャーは“戦略力”で勝負!」こうすれば立案・実践できる
- 2分でわかる! ビジネス名著100冊のエッセンス
- 「おしい!広島県」の作り方――戦略的広報とは何か?
- 「学習という快感」を刺激せよ! ――伝わるコミュニケーションの方法論
- リーダーならもっと数字で考えなきゃ! ――51のフレーズで学ぶマネジメントの鉄則
- 現場のマネジャーに贈る! 行動科学マネジメントの教科書
- パーソナル・リーダーシップで仕事を進めろ! 〜9つのビジネス筋トレ
- 成功のトリセツ
- 求められるセルフマネジメント! 挫けない行動がリーダーを強くする
- リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ
- トラブルを防ぐ! パート・アルバイト雇用の法律Q&A
- お金のお片づけで今年はスッキリ「毎日○×チェックするだけ なぜかお金が貯まる手帳術」
- 仕事の生産性を高めるエクセル&ワード術
- 「豆と油で生まれ変わる! からだキレイダイエット」は哲学的な本なのである
- 急増する管理職になれない40代