頑張らなくても、すごい成果がついてくる! ――「いいひとマネジメント」から「ずるいマネジメント」への転換のススメ:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
「いいひと疲れ」「任せられない症候群」など頑張りどころを間違っている一方で、飄々とチームを率いて好業績を叩き出している部署がある。その差は、何なのか?
部下が、何度言っても、動いてくれない
→「説明」なんかしなくていい。「質問」しておけば部下は勝手に動く!
「おまえ、あの例の提案の件、準備できたか? いついつまでに、あれをこうして、こうやって、で完成するように頼むぞ!」
「あ、はい、すみません。分かりました。やっておきます」
そして、数日後。まだ資料は出てきません。
「そういえば、あれ、どうした?」
「すみません、すぐ、やります」
「おいおい、先日教えたじゃないか、あれをこうして、こうやって、いついつまでにやらないとクライアントからクレームが来るぞ!」
さらに数日後。
「おい、例の件……」
「あ、すみません。これからやります」
「……」
できない人や動きが遅い人がチームにいると、上司のあなたがやり方までいちいち指示することが多くなります。さて、こんなとき、あなたはどうしていますか?
「ざけんな、あれだけやり方をなんども説明してやって、やるって2週間前に言っただろうが」と、ブチ切れたいところを(切れる方もいるかもしれませんが)、ここはぐっとこらえて、「いいか、しょうがないな、いまから間に合わせるには、こうして、こうして、こうしないとだな。以下、同様にやってみろ」と、またまた懇切丁寧に説明をし、同じように仕事をさせる。どこまで教えたらこの部下はきちんと仕事をしてくれるんだろう、とため息をつきたくなります。
こんなとき、「いいひと上司」から「ずるい上司」へと変貌しようとしているあなたは、いちいち手を貸すことを、今後はきっぱりと辞めましょう!
- 人が動きたくなるのは、「言われたから」ではない
こういうときの部下の心理としては、次の2つのパターンがあります。
(1)プレッシャーになって縮こまってしまう……気持ちはあるけども、体が動かず、いわゆる金縛り状態になっているのです。
(2)とにかく反発する……意識的にか、無意識的にか、人は「やれ」と言われたことには概ね心理的に反発します。上から命令されることを嫌がり、下手をすると、上司がどんなに説明をしたとしても、「そのやり方は違うんじゃないの?」と内心思っています。
上司としては、やり方まで教えて、なんとか早く資料を作らせたり、営業をうまくいかせたりと、部下を一歩でも前に進ませてあげたいとの親心からわざわざやっているのですが、、それが仇になっているのです。せっかくあれこれ説明してあげているのに、上司からすれば、「なんだよ、こんなに手をかけているのに」と思いますよね。
- 「説明」「説得」より「質問」
では、どうしたらよいのか。
説明なんかせずに、まずは「質問」を投げかけること。あなたが質問を適切に投げかけることで、部下が勝手に動くように仕向けることができます。コツは、部下自身が主体的にやりたくなるように質問を投げかけることです。
「いついつまでにやらないとダメじゃないか」
ではなく、
「これを完成させるには、どうしたらよいかな?」
「この件を成功させるには、何が必要だろうか?」
と質問をすることで、部下は、
「これについては、こうして進めたほうがいいと思います」
「今月中に受注するには、いついつまでに見積もりを提出しなければならないので、今週中でこういう風に提案を詰めます」
と、自身の口から言わざるをえないわけです。
押しつけられると人は嫌がります。だからこそ、部下のほうから「実は上司が言いたいこと」を自ら言わせるように仕向けましょう。そのためには、やはり、質問なのです。
- デッドラインを質問する
ここで留意したいのは、「デッドライン」です。
こういう事態に陥りがちな人は、総じて業務力が低い人ですが、なかでも時間軸のマネジメントがダメな人が多いです。そこで、上司のあなたとしては、特に「デッドライン」については必ず質問するようにしましょう。
「いつまでにやる?」と質問して、本人から「明日までに作ります」「今週中に提案します」という答えが出たら、「じゃあ、やってごらん」と任せます。自分で決めたデッドラインですから、少なくとも守ろうとします。
しかし、部下の答えがズレていて、「おいおい、それでは間に合わないだろう」ということもあるでしょう。しかし、ここはぐっとこらえて、「そうすると、こういうまずい状態にならないか」「この部分、このスケジュールで大丈夫かな?」と、これも質問を返します。相手に気づいてもらえるような質問をすれば、そこで部下はハッとします。
「そうですね。来週中で受注したいので、来週頭に提案できるように準備します」
「でも、先方の決裁を待っていたら、それで来週受注できるかな」
「確かにですね。分かりました、では今週中に提案できるようにします」
こうしたことを通じて、業務設計が苦手な部下も、「スケジュールを考えるときは、ここまで考えなければいけないのか」ということに気づき、必要なデッドラインを自分で決めることができるようになっていきます。
質問でデッドラインや仕事の仕方を自分で決めさせる。そうすれば、あとは、上司として、適宜タイミングを見てチェックをするだけです。なお、こうした部下の場合、デッドライン間際でチェックをすると間に合わなくなるリスクがあるので、できるだけ前倒しで進捗チェックをするとよいでしょう。
人に何かをしてもらいたい場合、「説明」「説得」ではなく「質問」にすれば、本人が認めた締め切りまでに、本人がやろうと思っている仕事のやり方で進めることができますし、自分から足りない部分に気づくことができます。自分自身の気づきですから、押しつけでない分、本人も吸収しやすいのです。
一番のメリットは、上司あなたの「説明・説得の手間」が省けますので、その分、あなたは質の高い仕事に自分の時間を割けるようになるのです。
私たち上司が楽しく、生き生きと、やりがいをもって働くためには、どうすればよいか。そして、私たちが、そのように働けば間違いなく、部下も会社もハッピーにし、家族や恋人、友人にとっても楽しく生活する起爆剤となり、結果、日本の社会も元気になることへとつながっていきます。私たちが元気に生き生きと働くことの責任は、あなたが日頃思っている以上に重大なのです。
そして、もう一度、それが上司である私たちの社会人人生を、実り多きものにしてくれるのですから、ぜひとも、本書でご紹介している「ずるいマネジメント」を戦略的に導入・活用し、メンバー個々人もチーム全体もムードアップし、エネルギーを爆発させるようリーダーシップを発揮ください。
上司人生を寂しいものには、したくないですよね!
著者プロフィール:井上和幸
1989年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。人事部門、広報室、新規事業立ち上げを経て、2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より株式会社リクルート・エックス(2006年に社名変更、現・リクルートエグゼクティブエージェント)。エグゼクティブコンサルタント、事業企画室長を経て、マネージングディレクターに就任。
2010年2月に株式会社 経営者JPを設立(2010年4月創業)、代表取締役社長・CEOに就任。経営者の人材・組織戦略顧問を務める。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。自ら8000名超の経営者・経営幹部と対面してきた実体験に基づき、実例・実践例から導き出された公式を、論理的にわりやすく伝えながら、クライアントである企業・個人の個々の状況を的確に捉えた、スピーディなコンサルティング提供力に定評がある。著書に『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない 係長・主任のルール』(明日香出版社)など。メディア出演多数。
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