「やわらかい頭の作り方」――自ら柔軟に変化していくためのヒント:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
グローバルに仕事をするために必要なことの1つは多様性を受け入れること。そのために必要なことの1つが思考の柔軟性である。一般に思考の柔軟性は、特定領域での知識や経験を積み重ねるほど失われてくる。いつまでも「やわらかい頭」で柔軟に新しい物事に対処していくにはどのようにすればよいだろうか?
「自分は特殊だ」は本当か?
これに関連して、典型的な頭を固くする思い込み、それは「自分が置かれた状況だけが特別だ」と思ってしまうことです。「自分の会社(仕事、業界)は特殊だから……」といのは職場でよく耳にするセリフです。他人にとっては「よくある上司と部下のお悩み」が、本人にとっては「いや、あの人と私の場合は特殊なケースで……」というのはよくある構図です。しかも皮肉なことに、1つの業界や会社しか経験していない人からこのセリフがよく出てくることが多いのです。そう考えると「自分自信が特殊だ」と考えてしまう癖も納得できます。「自分自身」はどう考えても一人分しか経験できないからです。
このように、どうも人間というのは、他人のことはすぐに一般化するくせに、自分のことを一般化されるのは好きではないようです。この「思考の癖」というのも、「柔軟に考える」ためには否定的に働きます。基本的に「自分は特殊だ」というのは、「だから◯◯さんのアイデアは使えない」という文脈で、「できない理由」に使われることが圧倒的に多いからです。
他人のアイデアをシャットアウトするのは後からでもできます。まずは「他人の成功例(それが自分と縁遠そうな世界のことであっても)は自分にも使えるかもしれない」と思ってみることも「やわらかい頭」への第一歩となるでしょう。
「知識と経験」は時に害になる
最後に、ここまで述べた「思考の癖」からの脱却のために意識できることを補足します。
子供と大人ではどちらが「頭がやわらかい」でしょうか?こう聞かれれば、おそらくほぼ全ての人が「子供」と答えるでしょう。では次に、子供と大人でどちらが「知識と経験があるか?」と聞かれれば、これもほぼ満場一致で「大人」となるに違いありません。
これは単なる「偶然の反比例」なのでしょうか? ここまで述べてきたような「思考の癖」というのは、よくも悪くも人間としての「知識と経験」がそうさせていることが多く、そう考えてくると、この「子供」と「大人」の関係は、「素人」と「専門家」との関係も同様にあてはまると考えられます。
つまり、「その道の専門家」ほど思考の癖が強く、いままでのやり方に固執し、他人の意見を聞き入れず、自分が正しいことの証明に血道を上げてしまう傾向があります。だから自分が専門領域の分野こそ、「頭が固くなっていないか?」という自問自答がより強く求められるのではないでしょうか?
「やわらかい頭」になるためにクリエイティブ・シンキングやブレイン・ストーミングの手法を習得することも重要ですが、それらを「アプリ」とすれば、その土台となる「OS(オペレーティング・システム)に相当するのが、ここまで述べたような基本的な姿勢です。
まずは自分の思考の癖を認識した上で、理解できないものを見たときに「おかしいのは(理解できない)自分の方ではないか?」と疑ってみることがやわらかい頭への一歩となるでしょう。
著者プロフィール:細谷 功(ほそや いさお)
ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。
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