女性マネージャーは必殺仕事人でいいのか?:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
自分が失敗すると後に続く後輩達に迷惑が掛かる、女性は男性の倍働かないとなかなか認められないのか。自らを心理的に追い込んでいるのでは。
ロールモデルがいたからって昇進意欲があがるものではない
必殺仕事人達に昇進意欲を持ってもらうためにはどうすればいいでしょうか。世間で最も盛んなのはロールモデルを企業が提示することです。昇進し、生き生きと働いている女性の先輩を身近に感じることで自分達も昇進を目指すとされています。ロールモデルの効用については多くの優れた研究があり、その有効性は否定しません。ただ、現状で女性達の声を拾ってみると、「ああにだけはなりたくないと思っている先輩をロールモデルとされてもねえ……」という声が非常に多いのです。会社側が男性目線で選んだロールモデルは、女性達にとっては参考にならないことが多い。これはとてももったいないことです。
バックティー・シンドロームにかかる女性達
今まで女性マネージャーは少数派でした。彼女達への調査では、少なくとも現状の男性マネージャーへの調査で見られなかった特徴がありました。「自分が失敗すると後に続く(女性の)後輩達に迷惑が掛かる」という抜き出し検査のサンプルのような感覚です。男性マネージャーへの調査で、この種の発言は聞いたことがありません。いくらでもそのポジションの代替となる人物がいるからです。そして、一定数の女性達が持つ「女性は男性の倍働かないとなかなか認められない」という感覚です。女性が自らを心理的に追い込んでいくこれらの要素をバックティー・シンドロームと名付けました。
バックティー・シンドロームに罹患(りかん)すると、ただでさえ真面目で、傷をなめ合う仲間がなく、自分を追い込むタイプが多い女性マネージャーにとっては、メンタルヘルス上難しい事態に直面するのは間違いありません。女性マネージャーを育成する際に、このリスクを減らすことこそが上司や企業の役目です。
ネットワークを広げることを助ける
上司と企業が考えなくてはいけないことは、女性たちが男性も含めて交流の場を持ちネットワークを広げるように配慮することです。ここで無理に女性同士にこだわる必要はありません。誰と話すのかは最終的には自分が選択することだからです。大事なのは、個人の活動ではおよばない範囲の人と知り合える「場」を提供することで、特に大がかりに予算をかけて何かを作る必要はありません。自分の友人達を紹介する、外部の研修や交流会にだす、社内横断的なプロジェクトに参加させる、そんなことでかまいません。
なぜ、ネットワークが必要か。情報交換という機能の他に、自分の心情を吐露し、お互いにアドバイスをしあうという機能も持つからです。いつもと違うメンバーと交流することで、「煮詰まっている」状態から、新たな刺激を得ることで脱出できる可能性も生まれます。
実はこのネットワーク構築こそ、企業が貢献できる最も大きな仕掛けです。
思い込みは捨てる
次に男性上司は女性マネージャーの足を引っ張らないことが必要です。意識としては「女性を応援している」つもりでも、女性に対して「こうあるべきだ」というマインドセットが強いために、結果的には女性を心理的に追い込み、足を引っ張っている男性上司は実に多くいるのです。そして、よく部下を観察することです。心理的に部下が追い詰められていないか。女性の場合は、より丁寧に観察するように心がけるべきです。必要とあれば積極的に介入します。
いずれにせよ、女性マネージャー育成は始まったばかりの過渡期です。試行錯誤をしながらその会社にあった育成方法を編み出すことなしに女性マネージャー育成はありません。
著者プロフィール:法政大学 ビジネススクール教授 高田朝子
モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
主な著書『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈の出来る人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、『危機対応のエフィカシー・マネジメント −「チーム効力感」がカギを握る−』(慶應義塾大学出版会)、『組織マネジメント戦略 (ビジネススクール・テキスト)』(共著、有斐閣)
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