インダストリー 4.0 における「つながるビジネスモデル」 の重要性 ――商用車におけるリマニファクチャリング事例:視点(3/3 ページ)
つながるビジネスモデルとは何かについてを商用車市場でのリマニファクチャリングを事例として紹介する。
2、インダストリー4.0 によるリマニファクチャリングの強化の方向性
Volvoのリマニファクチャリングは様々なつながるを実現していることを紹介したが、インダストリー 4.0 に登場するようなセンサーや通信技術に関してまったく触れていない。 前述したとおりインダストリー 4.0 ではつながるビジネスモデルの構築が重要であり、センサーや通信技術はつながるビジネスモデルを強化または加速する道具だからである。
Volvoのリマニにおいてセンサーや通信技術を使った場合どのような強化が可能か少しだけ触れてみたい。 リマニによって実現した長期間に渡る顧客との接点というつながりをセンサーや通信技術で補うことで顧客への価値提供を更に高めることができる。
現状のVolvoのリマニでは、顧客の車両の定期メンテナンスに際して、もしくは車両の故障発生時にコアを回収する。 もしセンサーや通信技術によって顧客や車両の稼働状況を理解することができれば、修理やコアの回収タイミングをうまくずらすことができる。
例えばセンサーによって、エンジンの利用状況をリアルタイムに監視し、これまでのコアから得られた磨耗 ・ 故障情報と組み合わせて車両が故障する前に適切な修理を実施する、コアとして適切な品質状態のときに回収を促す、などが実現できるはずだ。 顧客にとって突然の故障はもっとも避けたいことであり、車両の未稼働時間をうまく使って修理やコア回収することを顧客に提案できればダウンタイムは更に短くなる上に、故障前に修理できることで顧客の支出も抑えることができる。正規販売店としては顧客にアプローチする絶好の提案材料になり、顧客とのつながりも強化される。(図C参照)
現時点でVolvoはセンサーや通信技術を使ってリマニを強化するという活動には着手していないが、今後つながる技術と組み合わせることでリマニは確実にビジネスモデルとして強化され、リマニは事業として拡大する。
3、おわりに
4.0の要はつながるビジネスモデルの構築である。センサーや通信技術の導入を検討する前に、顧客と接点をどのように強化したいのか、ビジネスパートナーをどのように巻き込むと顧客への価値提供が拡大するのか、どのような提供価値の連鎖を期待するのか、の3点をしっかりと定めることが重要だ。
リマニは大型商用車の事例であり、特殊な状況だと思うかもしれないが、様々なつながりの向上を必要とする業界は存在する。例えば、スマートフォン業界だが、2015年の販売台数成長率は、米国・西欧・中国・日本では一桁台に留まり、成長が鈍化した。
平均保有期間も日本を例にすると10年前は2年間だったのが現在は4年間と長期化が進んでいる。 スマホメーカーにとっては、売切り型のビジネスモデルだけでなく、保有期間が倍に伸びた4年間、どのように顧客との接点を維持するのかを再考する必要がある。
現状、スマホメーカーは顧客との接点維持を、十分出来ているとは言いがたく、NTTドコモなどの携帯通信オペレーターに任せ切っている。スマホはセンサと通信技術そのものであり、顧客のメンテナンスが必要な時期(バッテリーが劣化する、新品買換えのタイミングなど)に合わせたアプローチが可能なはずだ。加えて、シムロックフリー機種(特定の形態通信オペレーターに紐付かず、自由に通信業者を選択できるスマホのこと)が解禁されたことによって顧客とのつながりはオペレーターだけに任せておくことはできない。 いまこそ、顧客とつながるビジネスモデルの再考が必要なのではないだろうか。
著者プロフィール
大橋譲(Yuzuru Ohashi)
ローランド・ベルガー プリンシパル
カリフォルニア大学サンディエゴ校情報工学部を卒業後、日本ヒューレットパッカード及びセピエントで企業のITシステム構築を多数経験した後、ローランド・ベルガーに参画。米国系戦略コンサルティングファームを経て、復職。
自動車、石油、ハイテク企業など幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略(特に東南アジア諸国)、業務プロセス改革、コスト削減、IT戦略等のプロジェクト経験を有する
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