新たな事業機会:アジアでのエネルギーを捉える
冒頭でみたように、グローバルでエネルギーの需要が拡大する中、アジアがそれをけん引する。 中国とインドが大きいがその他アジア諸国も大きく需要を伸ばす。
そのため、アジアの持続可能なエネルギーシステムを構築する必要がある。すなわち、温室効果ガスの排出量拡大を極力抑制しながら、地域に賦存する資源も最大限活用することで、エネルギーセキュリティを確保しつつ、エネルギーミックスを最適化する。
具体的には、例えば、大規模高効率な火力発電所によるエネルギー供給、再生可能エネルギーや小型LNGを活用した分散型エネルギー供給システムの展開、エネルギーの最適調達を可能にするエネルギートレーディング、が考えられる。これらを実現していく中で、日本の企業は、アジアのエネルギー供給に貢献しつつ、事業機会を獲得し成長につなげたい。
1、大規模・高効率の火力発電でエネルギー需要拡大の規模に対応
アジアにおいて、今後エネルギー需要量が飛躍的に拡大していく。これに対応するため、現地の化石燃料資源も活用し発電容量を早期に拡大する必要がある。併せて、温室効果ガスの排出を極小化することが必要となる。従い、高効率な火力発電設備を導入し容量規模拡大と温室効果ガス排出の抑制を両立する。IEAのアウトルックでも、2040年に向けた燃料別の発電量見通しにおいて、石炭発電が最大のシェアを占め、また年成長率でも再生可能エネルギーに次ぐ2番目の伸び(5.6%)と想定されている。再生可能エネルギーは成長率では7.6%で最も高い成長率を期待されているが、絶対量では石炭、ガス、水力に及ばない。(図C参照)
アジアにおける供給効率は、OECD諸国と比べて低い現状を踏まえると、日本企業としては、高効率大規模火力技術で貢献し、IPP事業を拡大していきたい。
2、再生可能エネルギーや小型LNGを活用した分散型エネルギーシステムで電化率向上、エネルギーコスト低減、及び低炭素化に貢献
アジア諸国は島嶼部が多く、現状では高コストのディーゼル発電での電力供給のケースが多い。電化率が100%に満たず電化されていない島嶼も残っている。このような中で、再生可能エネルギーや小型LNGを用いて、電化率を高め、低コスト化していくことが有効だ。
再生可能エネルギーに関しては、低炭素化とエネルギーセキュリティの観点から、アジアにおいても積極的な推進状況が見られる。資源は国により多様に賦存していて、インドネシアは地熱と太陽光、タイでは風力、太陽光、バイオマス、台湾では風力と太陽光、といった具合である。各国とも、再生可能エネルギーの導入目標を設定したり、固定価格買取制度を設定するなど、導入を促進している状況だ。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは発電量が揺らぐため、需要とマッチングさせるためには、蓄電機能も備えたエネルギーマネジメントシステムが不可欠である。これには過去データの分析を踏まえた発電量予測や、多くの発電設備と蓄電機能をトータルで最適化する機能が必要になる。日本の多くの企業も開発に余念がない所であり、この領域での貢献余地も大きいだろう。
LNGに関しても、短中期ではグローバルでのLNG供給力が高まる中で、サプライヤーサイドからも新たな需要を開拓しようとする動きがある中、小型LNGを活用して、アジアの島嶼部にLNG供給を行い、ダウンストリームを含めたビジネスの可能性があるのではないか。
フランス大手のエンジーの戦略にもあるように、揺らぐ再生可能エネルギーとそれを補完するガス火力をセットで低炭素の大規模エネルギー供給システムを展開していくことも考えられるだろう。
3、エネルギートレーディング
アジアを中心においてエネルギー需要が増加していく中で、エネルギーの供給元も多様化が見込まれる。
LNGについてみてみると、需要側は2010年は22か国が輸入国であったのに対し、2016年には35カ国が輸入国となっている。経済成長に伴うエネルギー需要の伸びに対応する目的が多く、タイやマレーシアのアジア諸国のみならずエジプト、ヨルダンなども新たな輸入国になる見通しである。ポーランドやリトアニアはロシア依存を避ける目的でLNG調達に乗り出す見通しである。
他方の供給側は、2017年から輸出を始めたシェールの北米のみならず、オーストラリア、ロシアなどからの輸出が拡大する見通しである。加えて現状輸出国の動きの変化もあり、ロシアは、欧州諸国への輸出が減少する中で新たな供給先をアジアなどに求めようとしている。(図D参照)
そしてLNG需要の拡大を見通して多くの新たな液化基地の設置が進められていたために、2020年代半ばまでは需給が緩い状況が続くとの見通しが持たれている。
このような中で、LNGの流入増加が見込まれるアジアにおいて、調達の確保と価格の安定化を図るため、トレーディングを含めた取り組みが重要となる。日本企業としては、新たな需要地に対して自社の調達能力・トレーディング能力を活用して、需要開拓・ガス
供給を行う、これによりLNGトレーディング事業という新たな事業を作ることができるのではないか。
著者プロフィール
遠山浩二(Koji Toyama)
ローランド・ベルガー プリンシパル
東京大学法学部を卒業後、米国系ITコンサルティングファーム、米国系戦略コンサルティングファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。
エネルギー、ITを中心に、消費財・流通、金融、その他の業界を含め国内外の幅広いクライアントに対して、成長戦略、事業戦略、事業ポートフォリオマネジメント、営業戦略、M&A、業務改革、営業支援、ITマネジメント、コスト削減、などの豊富なプロジェクト経験を持つ。
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