デジタル技術が拓く未病・予防医療の未来――新規ビジネスモデル構築とマネタイズの切り口:視点(2/2 ページ)
製薬企業含む医療プロバイダは「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の二律背反をいかにして克服すべきだろうか。
2、デジタル技術がけん引する「予防医療ビジネス」
こうした「健康な個人」を対象とした予防医療を可能とする大きな要因の一つが、デジタル技術の革新である。例えば、モバイルヘルスデバイスの普及は、これまで収集することが困難であった個人のバイタルデータへの常時アクセスを可能にする。高品質なデータをリアルタイムで大量に収集することができれば、これまでブラックボックス化されていた「健康な個人」が「患者予備軍」へと遷移するプロセスの解明も進むであろう。
また、遠隔診療やAIによる診断補助が、地理的あるいは人的制約を取り除き、医療提供の垣根は格段に低くなる。今後、さまざまなデジタル技術が、潜在的な患者の早期発見に大きく貢献するだろう。加えて、デジタル技術の革新により、患者側に大量のデータが蓄積し、医師と患者間のパワーバランスが大きく変化するであろう。その結果、これまでの医療機関を中心としたマス対象の医療から、「患者中心の個別化医療」へとパラダイムシフトが加速すると考えられる。
3、予防医療ビジネスのマネタイズに向けて
予防医療を事業化(マネタイズ)するためには、「サイエンス起点でのアプローチ」と「エンゲージメントを高めるアプローチ」の双方が必要である。人間は、病気にかかって初めて健康のありがたさ、予防行動の大切さを実感する生き物である。予防医療ビジネスがマネタイズに至らない大きな理由の一つが、健康な個人にとって、疾患に対する予防行動をとることのメリットがいまひとつ見えにくく、対価の支払いに至らない点にある。「健康な個人」を予防行動に向かわせるインセンティブをいかに設計し「エンゲージメント」を高める仕組みを設計できるどうかが、マネタイズに向けた鍵となると言えよう。
4、 終わりに
日本には、ライフサイエンスと医療業界に精通した製薬企業/医療機器メーカーも、消費者マーケティングに長けた消費材プレーヤーも、最先端のデジタル技術を有するテックプレーヤーも存在する。従来の業際を超えた異業種のコラボレーションにより、画期的な予防医療のビジネスモデルを新たに構築することができるのではないか。そのようなビジネスモデルの構築をぜひご支援させていただきたい。
著者プロフィール
服部浄児(Joji Hattori)
ローランド・ベルガー プリンシパル
一橋大学社会学部卒業後、伊藤忠商事、A.T.カーニーを経てローランド・ベルガーに参画。東京、中国、ドイツ勤務を通じ、日本企業のグローバル戦略立案と実行を現地で支援。帰国と同時に武田薬品工業に参画、経営企画業務に従事した後、ローランド・ベルガー東京オフィスに復職。約19年間の戦略コンサルティング歴を有する。
著者プロフィール
田尻 健(Ken Tajiri)
ローランド・ベルガー コンサルタント
京都大学農学部卒、同大学院医学研究科修了後、ローランド・ベルガーに参画。製薬業界、医療機器業界を中心に、研究戦略、R&D戦略、ビジョン策定等のプロジェクト経験を有する。
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