COVID-19後に押し寄せる3つの大波〜物流・人流・金流の進化を読み解く〜:視点(2/2 ページ)
グローバル化とローカル化、効率追求とリスク対応。二律背反の中庸を探るのでなく、二律背反を打破しよう。過去へ回帰するのでなく、未来を創造しよう。
蒸気機関革命がもたらした自動化とグローバル化、情報通信技術革命がもたらしたサービス経済化は、製造業セクターの肉体労働や非製造業セクターのサポート部門の雇用を代替したが、グロボティクスは頭脳労働を代替し、先進国のホワイトカラー中間層の雇用を直撃する。
国際経済学者Richard Baldwin教授は警鐘を鳴らす(注2)。AIによる機械翻訳、ビデオ会議システムや拡張現実(AR)を活用した新興国の頭脳労働者が、遠隔移民(tele-migrants)となって先進国に仮想的に流れ込み、賃金競争を始めるのだ。遠隔移民は「壁」の建設などお構いなし。あたかも隣りに座っているかのごとく協業する。在宅勤務が夢物語でなくなったCOVID-19後の世界、「仕事をする」の同義語は「会社に行く」ではない。国境をまたがった「時間単価あたり価値創出競争」の衝撃は計り知れない。
カネの流れ:ニューキャピタリズム
リーマンショックをきっかけに金融機関の持続可能性の危うさを目の当たりにした欧米グローバル企業は、社会貢献活動としてのCSRを超える「サステナビリティ(持続可能性)経営」に舵をきった。
気候変動が最大の経済リスクと認識され、世界銀行による石炭関連融資の原則禁止発表(2013年)を皮切りに、石炭ダイベストメント(投資引き上げ)が進んだ。2015年、国連サミットが「持続可能な開発目標(SDGs)」採択。世界は、株主価値と社会価値を対立概念と捉えるキャピタリズムから、共存概念と捉える「ニューキャピタリズム」へ移行しつつある。
そして、パンデミック。COVID-19は、安心や安全が「当たり前」でないこと、「当たり前」は努力して維持するものであることを知らしめた。「ニューキャピタリズム」への移行は確実に加速する。
遅ればせながら、日本の大手銀行グループも4月以降、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視した投融資方針を競うように打ち出した。みずほFGは石炭火力発電事業への新規融資の取りやめ、三井住友FGも新設石炭火力を原則支援しないことを明言した。ESG投資残高、ESG債発行残高も急拡大している。企業にとって、「マテリアリティ」(大きな財務影響をもつESG項目)の特定、バックキャスティングによる超長期戦略の立案は待ったなしだ。
(注1)グロボティクス=グローバル化+ロボット化
(注2)Richard Baldwin,“The Globotics Upheaval”, 2019
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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