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経営者と投資家の結節点としてのIR〜戦略レンズと財務レンズで企業を視る〜視点(2/2 ページ)

投資家はこれらのレンズを通して企業を視ている。IR担当役員自らこの投資家レンズをのぞき、レンズに映る自社の姿を経営者に伝えていかなければならない。

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Roland Berger
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戦略経営の要:「戦略レンズ」

 「戦略レンズ」を構成するのは、「市場性」「経済性」「相対性」の2群3枚レンズ。企業の長期的収益性を映すレンズ群だ。

 「市場性」レンズは、経営現場で不可侵にして聖域化しやすい議論を浮き彫りにする。優位性有無に関わらず、そもそも戦うべき土俵で戦っているか。誰ももうからない土俵で戦い、無駄に体力を消耗していないか。異業種を知るアナリストや投資家の業界マクロ目線は、幽体離脱して自社を視る良い機会だ。

 「経済性」レンズは、コスト優位性の根源(エコノミクス)を突き詰める。事業現場は競合とのわずかな差に目を付け、勝てる理屈を捻り出しがち。だが、無理は長続きしない。同業他社を知るアナリストや投資家の「相対性」レンズと併せ、冷静な彼我比較の機会をもたらしてくれる。

財務経営の要:「財務レンズ」

 「財務レンズ」を構成するのは、「ROIC(投下資本利益率)」「レバレッジ」「PER(株価収益率)」の2群3枚レンズ。ROEは、自社株買いやリキャップCBなどで短期的向上が可能。しかし、企業価値は生み出されるキャッシュフローが変わらない限り不変(「価値不変の原則」)。

 従い、長期投資家は、ROEから「(財務)レバレッジ」を切り離した「ROIC」指標を重視する。企業が価値を創造するのは、ROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回る場合だけ(「価値根源の原則」)。ROIC経営へのシフトは、ROEとバランスシートの同時改善と事業部門別投資効率評価を可能にする。最後は「PER」レンズ。株価が1株当たり当期純利益(EPS)の何倍かを同業他社比較することで、株価の割高・割安度見極める。

投資家と経営者の結節点としてのIR

 換言すれば、「戦略レンズ」と「財務レンズ」は表裏一体、コイン(稼ぐ力)の裏表。事業経営経験や事業投資経験なくしてIR担当役員が務まらないのは、このためだ。

 人気商品「ファミチキ」の考案者としても知られる、ファミリーマートの上田元会長は、若手社員に「経営者だったら、自社をどのように投資家に説明するか」と常に問いかけたという。

 経営は、過去からのフォーキャストと将来からのバックキャストの接点を見いだす仕事。しかし、実際にはフォーキャストに縛られ、制約条件フリーな思考が難しい。他方、投資家はフォーキャストに縛られない。投資効率最大化に向け、業界や企業をバックキャストで眺め、投資ポートフォリオを組む。だからこそ、時として強制的に投資家目線で自社を視る必要がある。

 IRは、経営者と投資家の共創を促進する結節点。ここにIRの存在意義がある。投資家といっても、短期投資家(ヘッジファンドなど)、長期投資家(年金基金など)、友好的アクティビスト、敵対的アクティビストなど、属性はさまざま。「知恵のなる投資家」との対話は、「エクイティ・ストーリー」につながる。「知恵のなる投資家」と「カネのなる投資家」(株主構成)を企業の成長ステージに応じて再定義しながら、持続的な価値創造のPDCAを回し続けられるか。IR活動の真価が問われている。

著者プロフィール

田村誠一(Seiichi Tamura)

ローランド・ベルガー シニアパートナー

外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。


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