Value Webの衝撃――Value Chainからの大変化:視点(2/2 ページ)
左から右に一直線に流れるValue Chainは、じきに過去のものとなる。これからは、Value Webの時代がやってくる。一直線ではなく、蜘蛛の巣のような構造になるのだ。
それではなぜこれまでこのようなオーケストレーターが生まれてこなかったのか。そもそも、Value Chainから Value Webへの変革は、既存の事業者ならびにプロバイダーにとって、自身の業態のディスラプションを招かれうるイノベーションとなりうる。よって、既存のステークホルダーからのオーケストレーターの登場は実現可能性が低い。オーケストレーターとしての成功を収めようとすると、(1)エンドユーザーのニーズを量的・質的に把握する、(2)業界知見をもとに各プロバイダーの能力の現状を見える化して随時アップデートする、(3)プロバイダーの中でも、調達や製造を支える物流まで鑑みて全体として経済合理性を担保したビジネスモデルを構築する・それをプラットフォーム内で明示化する、(4)経済合理性を更に高めるべく、上記 3点を事業者・プロバイダーに説明し、プラットフォーム内に入ってもらう愚直な説得を行っていく、などの必要があり、これらは一朝一夕にできることではない。
このようなハードルは、各種ソリューション・テクノロジーの登場・導入、及び第三者の業界参入によって解決されつつあることが、Value Web進展のきっかけとなる。各業界での例を見ていきたい。
3、各業界での兆し
ミスミは、部品製造業従事者を創造的でない作業から解放することを目指し、図面作成や委託先選定等をWeb上にて短時間で行えるプラットフォーム、meviyを提供しており、既にトヨタ・パナソニックなど大手メーカーが活用している。製造業の部品発注では、多数の中小業者が存在するため委託先の選定にも時間を要し、更にはデジタル化の遅れにより図面のやりとりなどでムダが多く、発注から見積もりまで平均して2週間程度を要していた。そこでミスミは、3D図面と蓄積された情報を基に納期と何万社もの供給元・委託先を AIが自動算出・特定を行い、即日で見積もりが可能になった。
Slatedは、ハリウッドにおいて属人的・属社的関係に依存する映画業界の変革を目指し、映画業界の製作者・演者マッチングや資金調達支援のプラットフォームを提供しており、2019年のオスカー作品の約 60%に関与している。映画業界は元来、個人のスキルに依存する業界故、属人的・属社的関係に依存した取引関係が多く、契約関係や評価・報酬が不透明であるという課題が存在した。そこで、大手制作会社に属していない映画プロデューサー経験のある CEOが、社内のエキスパートによる製作者の能力を出演 ・受賞歴等に基づきスコアリングを行い、マッチングの公平性確保や評価・報酬の透明性確保を促進している。
ヨーロッパでは、中小企業の収益力強化のため EUが設立したEUROPEAN CLUSTER COLLABORATION PLATFORM(以下、ECCP)が、中小企業のクラスタ形成を支援している。マッチングイベントやサイト上で出会った企業同士が、自律的なクラスタを形成する。マッチング段階でのフォーラムによる対面での認識すり合わせや、ECCPによる継続的なモニタリングとクラスタ内での相互評価によって、各企業・個人の能力を適正評価している。
Value Webは、既にコモディティ化していてスケールメリットが追求されている業界、あるいは生命の安全を第一とするあまりその品質管理・安全管理の担保に一定程度の期間・プロセスを要する領域は進展が見込みにくい。逆に、そうではないフラグメントな業界は一早くValue Webが進行している。業界特性を見極めながら、Value Webの進展を占っていかなくてはならない。
著者プロフィール
中野大亮(Daisuke Nakano)
ローランド・ベルガー パートナー
東京大学法学部卒業。米系戦略コンサルティングファームを経て現職。産業材、鉄道・航空、総合商社等を中心に幅広いクライアントに対し、事業戦略、成長戦略、M&A/PMIなどのプロジェクト経験を豊富に有する。昨今では、未来構想・長期ビジョン、新規事業量産、POC、スタートアップ連携といったテーマに数多く取り組んでいる。
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