第21回:超多忙なマネジャーを救う、メンバーの「納得」と「主体性」を引き出すコミュニケーション術:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
コロナ以降、「部下が何を考えているのか分かりにくくなった」という相談が増えてきた。部下が自立して、いきいきと働いてもらうために、上司として何ができるのか。
うまくいっている組織では、「これはやってほしい」「この方針でやってほしい」ということを明確にしています。部下が「いや、それはちょっと」と言ったとしても、正しいことであれば「いや、この方向で力を貸してほしいんだわ」と言いながらうまく巻き込んでいく。
巻き込んでいく中で「具体的な方法は考えてもらっていい?」「提案してよ」「一緒に考えていこうよ」というコミュニケーションをし、実際に部下たちから提案をもらい実行もしてもらいます。
うまくいっているところは「方針はトップダウン、やり方はボトムアップ」で、逆にうまくいっていないところは「方針はトップダウン、方法もトップダウン」になっています。
「やれ」と言われて、やらされ仕事ばかりをしている状態ですね。これではやる気がなくなります。
ジブリの鈴木さんも伝説の外資トップも採用した、「衆議独裁」コミュニケーション
伊庭さんは何かの映像でジブリのプロデューサー・鈴木さんのこんなやり取りを見たそうです。
鈴木さんが若手に「あなたはどう思いますか?」と聞いて、その若手が「ちょっとそれは時代を考えると合わないので、やめたほうがいいと思います」と言う。
また鈴木さんが別の若手に「あなたは?」と聞き、その若手は「その観点もあるけど、私はこうだと思います」と。
こうしていろんな人に聞いていって、「Aだと思います」「Bだと思います」「Cだと思います」とそれぞれ違う意見が出てきたと。
そして最後に鈴木さんは、「そっか。みんな意見を言ってくれてありがとうね。確かにそれも一理ある。でもね僕、Aでもなく、Bでもなく、Cでもなく、Dがやりたいの」と言ったそうです。
これについて、その場の皆さんはしっかり納得・合意していました。みんなが納得して従うわけです。なぜかというと、その前に自分がちゃんと話すプロセスがあったからですね。
鈴木さんは、「そうか。みんなはそうなんだけど、実は自分はこれがやりたい」の時に、強引に決めているわけではない。意見を聞いた上で「やっぱりこれなんだ」と言っているので、納得感がある。そして、この方法で決めた方針には誰も逆らわないのです。
この、「みんなが納得する」コミュニケーションスタイルは、「衆議独裁」型のコミュニケーションと言い、伝説の外資トップと言われた新将命さん(日本人初めてのジョンソン・エンド・ジョンソン社長に就任、経営コンサルタント、『伝説の外資トップが説くリーダーの教科書』等)も全く同様のコミュニケーションを経営者やリーダーに推奨していました。
「みんなで議論を尽くし、最後はトップが独裁で決める」。みんなの意見を集めて「決めるのはトップである」。本当にその通りだと思います。
まさにそこにこそ、自社の企業文化が現れるのです。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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