「いい会社」に共通する4つの特徴:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
財務的業績が高い会社、超長寿企業、働きがいのある会社に共通する特徴は、どの会社でもできそうでできないこと。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
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経営者はもちろん、人や組織に関するコンサルティング業、研究開発を行っていくうえで、どういう会社が「いい会社」で、そのような「いい会社」が何を行なっているのかという観点は欠かせません。
そういう問題意識で、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所(以下RMS研究所)において、「いい会社」の研究を始めました。その内容を7月に上梓した『「いい会社」とは何か』という書籍にまとめました。ここではそのエッセンスを紹介します。
「財務的業績」×「長寿」×「働きがい」
「いい会社」の研究は、昔から行なわれています。ピーターズとウォータマンの「エクセレント・カンパニー」、コリンズとポラスの「ビジョナリー・カンパニー」がその代表です。いずれも財務的業績がいい企業を「いい会社」としています。
一方で、財務的に大きな飛躍はないが、長く事業を継続している企業も、今後の企業経営を考えるにあたって、注目に値する企業群です。特に、100年を超える「超長寿企業」は、近代国家誕生以前に創業され、この100年間の激変する環境を生き残ったという観点で、「いい会社」と言えるでしょう。
また、働く人の「働きがい」というのも、「いい会社」を考える上で、必要な視点であるといえます。従業員が生き生きと働いているという側面は、企業の社会的責任という観点でも、これからもっと重要とされる視点であると考えられます。
そういう背景のもと、「財務的業績」「長寿性」「働きがい」の3つの観点は、「いい会社」を考える上で重要と思われます。
「財務的業績」の良好な企業に関しては、RMS研究所のプロジェクトメンバーによって、1974年9月から2008年6月までの、全上場企業の株価リターンを計算し、産業別に株価リターンが大きかった企業を選出し、各企業の事実分析を行ないました。
「長寿企業」の特徴に関しては、亜細亜大学教授 横澤利昌氏が中心に行った長寿企業の調査を参考にし、「働きがい」の特徴に関しては、Great Place To WorkRモデルを参照しました。
そこから導き出された「いい会社」に共通する特徴は、以下の4つです。
(1)時代の変化に適応するために自らを変革させている
(2)人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行なっている
(3)長期的な視点のもと、経営が行なわれている
(4)社会の中での存在意義を意識し、社会への貢献を行なっている
4つの特徴に驚きの事実はありません。すでに多くの人によって、語られていることです。しかし、実行していくことは容易ではありません。
自らを変えていくことはそう簡単ではない
変革の担い手は個人です。しかし、昨日まで行なっていたことを変えることはそう簡単ではありません。禁煙を試みて成功した人は6%と言われています。そう簡単に行動は変えられません。そもそも「変化しない」ことのほうが、短期的に合理的です。昨日やったことを今日もやる。人は安心してできるし、コストも掛からない。そして誰でもできるように、標準化、マニュアル化していく。結果として、企業の利益が上がっていきます。したがって、会社を運営していくと、自然と変化をしない方向へ流れていきます。しかし、世の中は変わるので、変革はせざるを得ない。変えるためのコストとエネルギーを惜しまず、やりきる会社が「いい会社」です。
「人を大切にしていません」という会社はありません。しかし、差別化を図っていくための知恵の源泉は、「人」だと思っている会社は意外と少ないかもしれません。「いい会社」では、働いている人をひとりの人間として尊重し、一人ひとりの能力を引き出すために、制度や仕組みのようなハード面、風土やコミュニケーションのようなソフト面でもさまざまな工夫をしています。ベースには、個と組織の「信頼」があります。
経営は、働いている人を信頼し、現場での工夫を奨励しています。一人ひとりが当事者意識を持ち、目的を考え、PDCAを回していきます。しかし、そのためには一人ひとりの動機や志向や能力を丁寧に見ていかなければいけません。コミュニケーションコストや育成コストはかかります。それも惜しまずできる会社が「いい会社」です。
存在意義を考え抜く
環境変化に対応するためには、日々の改善とともに、長期的な視野における変革が必要です。技術革新、人口動態、顧客の嗜好の変化に対する対応など、大きな流れを読む中で、自社の得意とするところと他社の動向を見きわめながら、次の方向性を決めていくことが求められます。日々の業績圧力の中で、長期の視野を持つことは、どの会社でもできることではありません。経営の仕組みや理念の中に、うまく組み込んでおく必要があります。
「いい会社」を見てみますと、企業理念や組織風土に「社会の中で生かされ、社会への貢献」という内容が組み込まれていることが分かります。社会貢献と高業績は、どちらかといえば対立概念として考えられますが、各社の事例を見ていると、そのことが間違っていることに気付きます。「世のため、人のため」という志が、人々の志に火をつけ、企業の成長に一役買っています。
一般論として、短期的業績を上げる施策と長期的に業績を上げる施策が対立した場合、短期的業績を上げる施策を優先する傾向があります。短期的業績を上げることを継続していけば、企業は弱っていきます。しかし、長期的な観点での施策は、何らかのポリシーに基づかなければ長続きできません。その判断のよりどころとして、会社の「社会的存在意義」があります。「いい会社」とそれ以外を分かつものは、どれだけ経営が深く自社の「社会的存在意義」ということを考えられたかどうかといっても過言ではありません。
この4条件は、互いに連関しています。環境に適応するために自らを変えていく必要があります。その変革の主体は人であり、その人の持っている能力を最大限に引き出すために、人を大切に扱うことが求められます。一人ひとりが持っている知恵や能力を促進させ、働く意味を持たせ、やる気にさせるために、その会社の「社会での存在意義」を明確にしています。また、変革の方向性を考える上で、あるいは社会での存在意義を考える上で、長期的な視野が必要となってきます。
著者プロフィール:古野庸一
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長。多摩大学非常勤講師。1987年東京大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社。南カリフォルニア大学でMBA取得。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年4月より現職。訳書に『ハイフライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)。著書に『日本型リーダーの研究』(日本経済新聞出版社)など。論文に「『一皮むけた経験』とリーダーシップ開発」(共著、『一橋ビジネスレビュー』2001年夏号)など。
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