「惜しい部下」のスイッチはどこに?:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
気づきを与える「ほんの一言」で、部下は劇的に変わる。スイッチを入れるための言葉とは。
次に、能力があるにもかかわらず、向上心がない部下に対してははっきりと叱ってみてはどうでしょうか。「能力があるにもかかわらず、発揮しないのは罪だっ!」――。「私って褒められて伸びるタイプなんですよね」などと言ってのける新人君も増えていますが、それはそれでいいとして、「叱る」というコミュニケーションの様式もしっかりとマネジメント場面で生かしていきたいものです。
そもそも人を叱るという行為は、叱る方も叱られる方もできれば避けたいという想いが強いですから、ややもするとその利害が一致してしまい、上司が部下を叱ることから逃げてしまうということが起こるのです。本当は叱りたいのに、相手を傷つけてしまうのではないかとか、モチベーションを落としてしまうのではないかと先回りしてしまい、結局、見て見ぬふりをしてやり過ごしてしまう上司が少なくありません。
昨今のパワハラ、コンプライアンス強化といった流れも、部下を叱ることをためらわせる一因になっています。しかし、それは部下と真剣に向き合うことを放棄することですから、マネージャーに求められている役割責任に背を向けることになってしまいます。
正直、能力があるにもかかわらず、向上心がない部下に対して「叱る」というアプローチはかなり効きます。例えば、「能力があるにもかかわらず、発揮しないのは罪だっ!」という叱り方ですが、こう叱られて、いじける部下はいません。なぜなら、その部下に能力があるということを認めているのです。これは部下のことを褒めているに等しく、にもかかわらず、それを発揮しないことを叱っているのです。
「怒る」というのは単に上司の感情エネルギーの放出ですから、部下から「すみませんでした」という謝罪の言葉を引き出して、上司の方はスッキリするかもしれませんが、そのことが部下の行動の変化や改善につながるとは限りません。「怒る」と「叱る」の根本的な違いは感情的であるか、理性的であるかというのもありますし、前者が単なる感情エネルギーの放出なのに対し、後者は相手の行動の変化や改善のためという目的とその前提となる相互理解があると理解しておくといいでしょう。
さらには、「能力があるにもかかわらず、なぜそれを発揮しようとしないのかっ?」という疑問形の叱り方にすれば、部下にその理由を考えさせることができます。
叱る目的というのは、「すみません」という部下の謝罪を引き出すことではありません。部下にその理由を考えさせて、何をすれば行動が変わるのかを考えさせて、その一歩として何から始めるかを考えさせて、行動に移させなければ叱る目的は達成できないのです。部下の将来のことを考えればこそ、心を鬼にして向き合いましょう。
著者プロフィール:大塚 寿
1962年、群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)でMBAを取得。現在、現場の取材を重ねた上で事務局と一緒に作り上げるオーダーメードの営業研修、マネジメント研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。
著書に累計25万部のベストセラー「40代を後悔しない50のリスト」「30代を後悔しない50のリスト」「ビジネスパーソンのための結婚を後悔しない50のリスト」(以上ダイヤモンド社)、「1万人の体験から学んだ聞く技術」(PHP研究所)、「9割の人ができるのに、やっていない仕事のコツ」(三笠書房)などがある。
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