ある時、堤防にアリのあけた穴があって、そこから水がチョロチョロ漏れていました。通りがかった人が石を拾ってその穴を埋めました。その結果、洪水は起こりませんでした。その穴をほうっておいたら、洪水になっていた可能性があります。
何事もなかったということは、恐るべき問題解決なのです。穴を埋めた本人はすごいことをした感は何もありません。「こんなところに穴があいている。ちょうどいい石があったから、これで穴を埋めておこう」と、自然な成り行きで行動して去っただけです。
「私がこんなことをしました」とフェイスブックで発表もしていません。「今、穴を埋めている私」という自撮りもしないわけです。自分自身が洪水を止めた感もありません。
これが最大の功績です。
これこそがチームワークです。
「仲間のエラーをカバーした私ってすごくない?」という他者承認も求めません。お互いにさりげなくカバーをし合うのがチームで仕事をするということです。あらゆる問題解決は、大騒ぎしてすることではないのです。
ミスを起こしてくれたおかげで、ミスが起こる場所が分かる。
チームの仲間がミスをした時は、「あの人のせいでミスをした」ではなく、「あの人のおかげで助かった」と考えます。その作業の中で、どこにミスが発生しやすいかが分かったからです。
ミスが起こりやすい場所は必ずあります。それは、一見して分かりません。これが子どもと大人の問題との大きな違いです。子どもの問題は目に見えます。ところが、大人の問題は見えないのです。
「ここに問題があるんだな」と見えるのは、ミスが発生した時です。「ここにこういう問題があった」と分かれば、「それに取り組んで解決策を考える」ことができます。
誰かがミスをしてくれない限りは、そこに問題が隠れているということすら分かりません。
問題とは、隠れキャラクターなのです。例えば、戦争では、敵は隠れて待ち伏せしています。最初から「ここにいるぞ」と言わないのは当たり前です。
これが大人の問題です。大人の問題は、隠れて潜んでいるのです。それをあぶり出すには、例えば、油断した一人が敵が隠れているその草むらにおしっこをしに行くことです。そうすると、そこで敵に見つかって、バンバンバンと撃ってこられるわけです。油断してその草むらにおしっこをしに行ったおかげで、敵の隠れている場所が分かったのです。
ミスは、問題をあぶり出すいい方法なのです。
ミスをした人に、「おまえがミスをしたせいで」と言うのは間違いです。ミスをした部下には、「おまえがミスをしてくれたおかげで、ここに問題があることが分かった」「ここに敵がいることが分かった」と発想すればいいのです。
著者プロフィール:中谷彰宏
作家
1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。
【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー、ワークショップ活動を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。
著作は、『問題解決のコツ』(星雲社)など、1000冊を超す。
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