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未来構想とテクノロジーから考える「新しいイノベーション」視点(3/3 ページ)

イノベーションを起こしやすい時代になっている。発想を豊かにするためには、一産業に限らず横断的な視座で4つの枠組みで考えていくことが有効である。

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Roland Berger
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イノベーション・エッセンス

 既述の通り、産業やリソースを横断的に適用可能なイノベーション仮説を支える概念、コンセプトがイノベーション・エッセンスである。仮説「New Offering System」の核は、まさに「ラストワンインチ」であり、「次世代レコメンデーション」であり、「提案とトライアルの一体化」である。こういったエッセンスは冒頭でも述べた通り、横断的に適用可能なコンセプトとなり得る。具体的には2章で説明した通りだ。

能力モジュール

 イノベーション仮説を具現化するためにカギとなる機能を提供できるテクノロジーを能力モジュールと呼ぶ。VR、AI、ブロックチェーン、3Dプリンタ……新しい能力モジュールは枚挙にいとまがない。しかしこれらによっていったい何ができるのか、その全体感を具体的に理解できる機会は少ない。これらのテクノロジーがどんな機能を持ち、もたらすベネフィットは何か、他のテクノロジーと組み合わせたら何ができるのか……それを経営者は理解する必要がある。まだまだ進化すると思うが、例えばVR/ARでいうならば図Bのような形になる。(図B参照)

 弊社ではこれを「能力モジュール曼陀羅(まんだら)」と呼んでいる。中心から能力モジュール(テクノロジー)、実現機能、ビジネスベネフィット、ベネフィットごとの活用事例が整理されている。

 例えば、VRはゲームにすぎないだろうという認識がまん延しているが、決してそうではない。「人間が想像できることは全てVRで再現できる」とは弊社仲間企業株式会社エクシヴィの近藤社長の名言であるが、まさにそうであり、そしてそれはビジネスの世界での利活用には大きな広がりがある。図Bの右上に、実現機能:「過去の再現」、ベネフィット:「リスクフリートレーニング」とある。これは、危険性が高い作業や難易度の高いメンテナンス作業などを、実際に体験しどういった場合に失敗しやすいのか、匠の作業を多角的に観察してどう学んでいくかなど、さまざまなベネフィットが得られる。自社で必要なトレーニングは何だろうか。暗黙知の継承、人材の育成、いろいろな社会課題、企業課題を解決できる手掛かりがある。

 図B左上の「複数人でのリアルタイム連携」「意思決定の迅速化」では、実際にプロトタイプを作らないと生産工程や売り方が想像できないということではなく、VR空間上でデザイナーが出来上がりの製品をバーチャルに示すことで、エンジニア、生産部門、マーケティング部門、販売部門と同時に議論ができ、共通言語で話せることでより最適化された製品開発・販売が可能となる。これはこれまでの企業活動を一変させる可能性を秘めている。

 このように、イノベーションの糸口はあらゆるところに存在する。未来構想から出発する、テクノロジーから出発する、エッセンスを横断的に適用してみる。これらの想像はほぼ無限に可能であり、非常にわくわくするプロセスだ。もちろんその実現は大変ではあるが、最初の一歩となるこの発想プロセスほど重要なものはない。

4、最後に

 ローランド・ベルガー東京オフィスでは、日本型イノベーション「和ノベーション」を提唱している。日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」の意味を含むこのコンセプトは、企業や個人が持つ多様なノウハウ、技術、知恵などの「暗黙知」をモジュール=「ありもの」として見える化すること、また対話を通じて、「ありもの」を部門、企業、業界を超えた仲間の輪を指している。このような「ありもの」の徹底的な活用により、異次元のスピードで新しい価値創出を推進するという考え方である。また弊社ではオフィス内に「デジタルルーム」を開設、開放している。(図C参照)ぜひ昨今のテクノロジーに触れてみてほしい。

著者プロフィール

中野大亮(Daisuke Nakano)

ローランド・ベルガー パートナー/未来構想センターヘッド

東京大学法学部を卒業後、米国系戦略コンサルティングファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。

総合商社、鉄道・航空、産業機械などを中心に幅広いクライアントにおいて、事業戦略、成長戦略、全社ポートフォリオマネジメト、M&A/PMIなどのプロジェクト経験を豊富に有する。EPHTグループ(ENGINEERED PRODUCT AND HIGH-TECH)のコアメンバー。また、消費財やメディア・コンテンツの領域も得意分野とし、政府の主導するクールジャパンなどへの支援も行っている。


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