非常事態や赤字部門では、コンサルタントに変身せよ:生き残れない経営(2/2 ページ)
「赤字」は、非常事態だ。しかし、恒常的赤字になると、当事者の感覚がまひして非常事態という認識がなくなる。企業における非常事態は、時を選ばず形を変えて襲ってくる。
今思うと、もっと戦略的に取り組めなかったか。例えば、(1)顧客対策:赤字機種・顧客は常習で不変だった。数の構成比は小さいが、赤字額の比率は大きかった。世間の基準を外れる低価格については、もっと本腰を入れて組織的に値上げ交渉し、値上げが認められなかったときは、ある期間の納入義務を果たして受注辞退をする申し入れはできなかったものか。 (2) 外注対策:あれほど赤字で苦しんでいたのだから、情を排して、もっとビジネスライクに合見積もり、抜本的原価低減、外注統合などを大規模にできなかったものか。(3)間接経費対策:特に関連部門の人員配分について、乾いた雑巾を絞るほど工夫したか。
その後は情報新分野事業を担当したが、これも赤字で悩まされた。恥ずかしながら、当時はグループを取りまとめる立場でありながら、今思うと打った対策は極めて不十分だった。
対策の1つに、最も量のある製品の製造を新興国に移転した。しかし問題は、その部分の国内空洞化を招いたことと、顧客からの値下げ要求は際限がなく、とどまるところを知らなかったことだ。ついには事業部門トップの指示で、翌月完成予定の製造番号ごとの原価・収益見込みを毎月詳細に計算するノルマが課せられた。膨大な計算の手間が掛かり、本来は計算結果に対して対策をするのが目的なのに、そこまで手は回らなかった。一方で、ある時本社会議席上で社長から「赤字製品は、撤退しろ」と指示されて素っ飛んで帰ってきた部門トップは、前後の見境もなく「すぐ、撤退するんだ」とヒステリックに叫んた。
もっと戦略的に取り組めなかったか。毎月製造番号ごとの収益予想を計算するなどという近視眼的愚行は、例え上の指示でもそれを排して、効果の大きな戦略的対策を打つべきだった。欧米向輸出製品が多かったが、ただ当社標準品を納入して価格競争に陥るのでなく、一歩踏み込んで顧客と協働設計をして製品の特徴を出す試みができなかったか。売り方も、主要セットメーカーに積極的に接近してサンプル製品を納入したり、アンテナショップを開設したり、拡販のための戦略的手が打てなかったか。あるいは新分野事業と称しながら、売れない小粒新製品を開発していたが、新しい情報端末でも開発して市場に問うとか、やりようがあった。もちろん莫大な投資が必要で、思い通りには進まないだろうが、確固たる戦略立案と信念の下に成り立つ方法はあっただろう。そして、一方で当面の赤字に対する対策についての戦術的工夫を、関連部門と相談しながらできなかったものか。
もう1つ、その後情報機器・システム分野で収益確保に悩まされた。市販品の情報機器は何とか収益を確保できたが、共同視聴システム、安全監視システム、教育配信システムなどのシステム製品になると収益確保は難しかった。システム構築だけでなくアフターケアにも手間が掛かる割に、価格をたたかれた。市場の需要数にも限界の予感がしていた。
戦略的には、どうすべきだったか。まず市販品の機器は、主要4社ぐらいでシェアを分け合っていてそれが当たり前という認識だったが、機種揃えも品質も業界1、2位を争う位置にいたのだから、もっと積極的にシェアをとりに行く戦略をトコトン追求すべきだった。あるいは、メーカー間で機種をすみ分ける提案ができなかったか。
システム品は、先を見越してシステムにインターネットや情報端末との連携の新機能を追加したりして、付加価値を高める工夫をなぜもっとしつこく進めなかったか。そうすると他社との受注競争で優位に立てたろう。さらに何よりも、従来事業では限界が見えていたので、新しい柱として新規事業に取り組まなければならなかったが、それらに対する投資の合意が社内的に得られなかったこともあるが、執念が足りなかった。
こうして反省してくると、非常事態の場合も赤字の場合も、何のことはない、高い視点から見据えて、客観的に分析して対策を練る、いわゆる「戦略的」に発想し、対策を練り、実行するということは、「コンサルタントの立場」に立つことだ。通常の企業人は、ライン業務にどっぷり浸かって、バタバタ駆け回って、モグラたたきの仕事のやり方だ。コンサルタントの立場に立つことは、思いも寄らないだろう。そして、大体管理職は、少なくとも総合職以上の上位者は、仮に経営コンサルタントを依頼されたら、その手法に不慣れかもしれないが、経営コンサルタントをできるだけの能力は持っているはずだ。
ところで、筆者自身いずれの場合も今さら講釈を垂れながら、なぜ当時コンサルタントの立場に立てなかったのか。そこが問題である。いくつかの理由が考えられるが、1つは毎日毎日がモグラたたきに終始し、そこから抜け出ようとする気付きも時間もなかった。2つには、従来の固定観念にとらわれていて、必要な戦力も金も要求しても出るはずがないと諦めていたこと、そして3つには、何よりも「自問と自省」に欠けていたことだ(以前の記事「世の経営者・管理者よ、分かるかなあ? "自問と自省のすすめ"を」を参照)。
自社が非常事態に置かれたり、あるいは業績が赤字、ないしは赤字寸前で悩んだりしている企業人の皆さん、日頃必死に繰り返している「モグラたたき」からいったん抜け出し、自分が自部門の改善を依頼された「コンサルタント」になったつもりで、日頃の業務を見直して欲しい。経営者・管理職あるいはそこを目指す人なら、コンサルタントの視点で物事を見て、実行することはできるはずだ。そうすると、必ずブレークスルーの発想が出てくる。それを実行するための金・人・時間の投資は当然必要だ。それを引き出すための工夫が必要なのは当たり前で、皆さんの仕事そのものだ。企業人として生命をかける意味はある。
そのためには“自問と自省”、そして思い切りのよい実行力と執念が必要だ。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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