“対話”を欠く経営者は組織実行力を失う、今こそ“対話”を!:生き残れない経営(2/2 ページ)
「対話は、日常行われているか? 」と問えば、多くの経営者・管理者は「Yes」と答えるだろう、しかも心底から。現実と異なるその重大さに気も付かず、お人好しにも程がある。
問題は、対話とはどのようなもので、どのように実現するか、である。上掲ラム・チャランの理論を参考に、考えて行こう。
「人間同士の対話は何らかの結果を生み出すはずなのに、不毛な対話のために十分な意思疎通が図れず、断固とした行動が取れないケースが多い。断固たる行動が取れない原因は、組織風土にある。そうした風土を作り出したのはリーダーだが、またそれを変革できるのもリーダーである。」情報収集・加工・意思決定・決定内容の評価などは、対話の質で決まる。「対話をきっかけに新しいアイディアが生まれ、それにはずみがつき、市場における競争優位につながる。」「まさに、対話の中身とスタイルが社員の行動と信念、即ち組織風土を形成する。」その影響はラム・チャランのこれまでの研究で、給与体系の変更や組織改革、将来構想、商品や経営上の強みなどよりも早期に現れ、かつ永続するという。
では、対話を企業で実現し、定着させる方法についてどうすべきかである。
(1)まず、リーダーが社員との対話を重視し、対話スタイルを確立しなければならない。
(2)次のステップは、経営委員会・予算会議・戦略レビュー会議など、重要事項決定の場である「組織運営メカニズム」で率直な対話が交わされるように設計・運営することだ。
最後のステップは、フォロースルーとフィードバックを与えることだ。
この定着させる方法 (1)の場合、上記D社の例のように知的応答や真実の探求というよりも己の立場の固執や主張に終始していては、社員は活気を失い、行動を起こす気を失う。
(2)の場合、決断力のある組織風土では、組織運営メカニズムにおいて4つの特徴が見られる。
・オープン(対話の結論を、始めから決めつけないこと)
・忌憚なく(チームとして発言すべしではなく、自分のありのままを発言すること。上記A社の例では管理者に躊躇がみられ、D社の例では本音が隠蔽された)
・形式にこだわらない(型にはまったプレゼンテーションや発言を避けるべきだ)
・アクションプランの作成(リーダーの芯の強さと知性の試金石になる。アクションプランもペナルティもない環境は、優柔不断な組織風土を育てる第一原因)
(3)の場合、フォロースルーは決断力ある組織風土にはDNAのように組み込まれている。フォロースルーがないと業務遂行上の規律が乱れ、優柔不断が蔓延する。社員が常に率直である状況に置かれると、優柔不断な組織風土は変化し始める。率直さを促す上で、業務評価と給与査定という仕組みほど効果的なものはない。しかし、上記A社の例にあるようにこれを不得手とする日本企業は、並の企業で終わる運命を自ら宣言するようなものだ。
さて問題は、「真の対話」を実現・定着させる具体的方法論を考えられる場合はいいが、考えられない場合の対処の仕方である。上述の対話を実現・定着させる方法の中で、(3)は実施が難しくても、企業内にシステムとして組み込むことができ、実施を強制できるから、まだよい。しかし(1)(2)はほとんどの場合、システムとしても仕事の仕組みとしても組み込みにくい。実現と定着は、リーダーの意識と力量に頼るしかないわけだ。上司や社内組織が監視する方法もあろうが、「対話」が実現されているか否かが形に見えないだけに限界がある。
そこで、「対話」の重要性を意識する社内風土の構築、その中で社員が若い時からやがて管理者・経営者へと有形無形に教育されて育ち、リーダーになった時に無意識のうちに「対話」ができるようになっていることが正道だが、取り敢えず経営者・管理者自らが強く意識し、日々実行しなければ、企業の明日がないと考えて臨むしかない。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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