震災後日本の企業経営はこう変わる、先取りしよう:生き残れない経営(2/2 ページ)
東日本大震災・福島原発事故による被災からの立ち直りは、単なる震災「復興」でなく、震災を契機にこれからの新しい日本を創るという意味で震災「創成」というコンセプトに立つべきである。
4、「問題」の第4は、原発事故から電力不足・エネルギー問題がクローズアップされ、製造業、サービス産業、消費生活ともに、「資源多消費/浪費型社会」が表面化した。
「創成」案は、「限られたエネルギー、省電力で成り立つ経営モデルや社会モデルを構築」することだ。例えば、(1) スマートソサエティー(スマートグリッド、ビルや工場や諸施設の省電力管理制御システムの導入など、省資源型の環境社会)、(2) エコエリア(再生可能なクリーンエネルギー活用先進地域)、あるいは (3) マルチワーキングスタイル(省エネ・節電で働き方や労働時間を変える。
例えば、出勤時間や休日見直し・在宅勤務・遠隔会議・業務効率化とそのための情報機器開発、どこでも何時でもオフィス、ただしITの高度なセキュリティへの投資覚悟)、そして (4) エコライフ(節電家電品の普及、さらに1人1台主義の見直しや欧州のように家や物など良い物を永く使う文化へ、オランダや最近のイギリス/ロンドンのように自転車社会実現)などだ。
そのための法律やインフラの整備・国家的啓蒙運動を強力に進めなければならない。
なお、実は、エネルギー対策の観点から「節電」は枝葉末節の問題であり、根本対策に注力すべきだ。
5、 「問題」の第5は、「農畜水産業の閉鎖性・脆弱性」が鮮明になった。大半が家族単位の零細経営である沿岸漁業が津波や原発被害で廃業になり、農畜水産業の震災・原発事故への抵抗力・再起力が、事業規模・組織・資金力などの点で、個人事業者だけでなく自治体・国家なども含めて、全体として非力であることが改めて曝された。
「創成」案は、「農畜水産業に革命を起こす」ことだ。まず懸案の農業改革(農地集約など生産性向上、農協の改組など)だ。漁業改革も焦眉の課題だ。地元漁協優先操業の現行制度を見直し、漁業法など関係法令を改正し、個人・企業の新規参入を認め、集約・企業化などで大規模化へ。若者の雇用機会も拡大。水揚げから加工までをIT化し、計量・作業の完全自動化などで最先端の水産業基地とする。魚から抽出の認知症・高血圧に有効なドコサヘキサエンなどで、医療関連企業を誘致する案もある(日経新聞'11,5.24.)。
6、「問題」の第6は、国内外からの多数のボランティアで、「人のあり方や公共精神や教育」について考えさせられ、一方で教育施設破壊や避難などで子供たちを混乱させた。
「創成」案は、「教育制度の抜本的改革」だ。この際、どういう人材を育てるべきか?( 経産省が定義した社会人基礎力やグローバル人材などを参考に。人を大切に、創造的文化尊重、自然観・世界観の形成など)から考え始め、そのためにあるべき教育制度(例えば、小中高校のあり方、教育施設のあり方、世界学力テストの意味づけ、受験制度、就職採用制度など)を抜本的に改革することが必須だ(例えば、福祉・環境奉仕活動の学校教育正科編入、コミュニティスクールの課題解決と普及・定着化、入試システムの記憶力・偏差値重視から総合力重視への転換、学歴偏重の廃止、それらを背景に企業内教育システムも見直し、学校を当てにしない企業責任の教育、実践主義・自己研鑽重視の方向へ)。
7、その他の問題として、「都市集中の危険性」「高齢者のケア・医療施設提供不足など欠陥の表面化」、「政治の貧困」(これについては、選挙制度見直し、首相直接選挙制の導入など重要テーマがある)等などがあらわになっているが、ここでの詳述は省略する。
以上の創成日本において予想される企業経営像を、まとめてみよう。
1、居住地・産業拠点・交通などのインフラを強固にするための国土計画の抜本見直しが行われる中で、企業は主張を明確にする姿勢と情報に対する触覚を研ぎ澄ます必要がある。
2、以下の大いなるビジネスチャンスを先取りし、経済活性化を:(1)国土計画抜本見直しによる公共事業、(2)新規事業(水関連・鉄道などインフラ、環境、医療、省電力製品/システム/サービスなど)、(3)スマートソサエティー(スマートグリッド、ビルや工場や諸施設の省電力制御管理システム構築など)、(4)エコエリア(風力・波力・地熱・太陽光などクリーンエネルギー)、(5)エコライフ(永年の使用に耐えて価値の出る高品質製品、自転車社会など)、(6)農畜水産業への個人・企業の新規参入、(7)TPP対応
3、企業内で早急に、遅滞なく取り組むべき課題:(1)インフラ(a. サプライチェーンの抜本的見直しと確立 → 予防・事故対策、チェーンの流れ把握のITシステム化と高度なセキュリティ投資の覚悟、メーカー間の部品共通化など、 b. スマートソサエティー、エコエリアの積極的利用、 c. スーパーエンジニアリングシティへ資金・人材面で参加し、積極利活用を図る)、(2) 働き方(マルチワーキングスタイルの積極導入)、(3)教育(教育制度の抜本見直しにより、企業内教育システムも旧来方法を脱却し、学校教育を当てにせず、企業自ら人材教育に責任を持ち、座学中心からOJT・ロールプレイ・自己研鑽重視など体験・実践重視方向へ、さらに韓国の計画的現地派遣による国際人材教育のように時間と投資を惜しまない、など)、(4)企業の倫理観・コンプライアンス意識の変化(節電美徳・環境重視が、投資や就職の重要要件になる。さらに私企業の公共的役割増大とその対応)
企業は、創成日本における経営のあり方を先取りしなければならない。少なくとも乗り遅れないようにしないと、早晩企業経営は行早晩企業経営は行き詰まる。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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