新たな製造業の未来:視点(2/2 ページ)
新たな製造業の世界ではどのような事業機会が生まれるのだろうか。またその事業機会に対して日本のメーカーはどのような戦い方をするべきだろうか。
メーカー内で「つながる」範囲拡大により新たに発生する事業機会と戦い方
メーカーの中で、機械間、工程間、工場間がつながる、という進化には、どのような事業機会があるだろうか。機械間、工程間、工場間は、従来よりヒトを介したアナログな形でつながってきた。機械間、工程間は、工場内の作業員を通じてつながっていたし、工場間も連絡をとりあって連携してきた。つまり、この進化は、ヒトを介したアナログなつながりの、デジタルへの置き換えということである。そこで発生する最大の事業機会は、メーカーを顧客とした、つながりをデジタル化するためのBPR(Business Process Re-engineering)とツールの提供だ。
BPRでは、既存のメーカーがサービス提供者として競争力を発揮できる。そのため、メーカーが他メーカーに対してBPRを実施する、というビジネスが発生することになる。顧客であるメーカーは、既存資産、独自プロセスを持っており、その状態を理解した上で、BPRプランを策定する必要があるからだ。実際にRockwell Automationは、専門チームがものづくり企業のデジタル化支援を行っているが、その最初のステップで、レガシー資産の評価を実施し、顧客に合ったソリューションを提供している。従来より、顧客1社1社への丁寧な対応を続けてきた日本のものづくり企業にとって、顧客企業を診断し、One to OneのBPRを提供する、という事業は相性が良いのではないか。その場合、自らが汗をかいてデジタル化を成し遂げた経験が一番の糧になる。そのため、日本のメーカーは、まずは自らを最初の顧客としてBPRを進め、そこで蓄えたノウハウを他メーカーに横展開していくことが重要となる。
つまり、デジタル化ツールの提供は、メーカー、IT企業の双方にとって事業機会のある領域である。直近では、IoTプラットフォームにAmazonが参入したことが記憶に新しいが、ものづくりのノウハウがなくても参入可能な領域であり、レッドオーシャン化する可能性が高い。そのため、日本のメーカーが、デジタル化ツールの提供を事業機会として戦うには、もうけ所を明確化しておくことが最も重要となる。例えば、参入障壁の低い、IoTプラットフォーム領域は低価格として顧客を引き寄せるフックとし、アプリやデバイス販売でもうける、といった設計をしておく必要がある。
終わりに
製造業は、テクノロジーの発展によって、今後も進化が続いていく。製造業の未来像は日に日に変わっていくだろう。製造業に限らずだが、不確実性の高い未来に対処するポリシーを持つことは、企業にとって非常に重要である。
未来に対処するポリシーは、自ら未来を創るリーダーと、未来を予測して流れに乗るフォロワーに大別できる。日本には、フォロワーで未来に対処しようとする企業が多いように思う。フォロワーの姿勢は一見低リスクに見えるが、不確実性の高い市場で未来を予測する最良の方法は、未来を自ら創るリーダーになることではないだろうか。そのためには、自社が考える未来を明確にし、一緒に未来を創る仲間を巻き込んでいくことが必要となる。
かつて、ものづくり大国であった日本が、主導的な立場でものづくりの未来を創っていくことを願っている。
著者プロフィール
佐藤大輔(Daisuke Sato)
ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー
慶応義塾大学理工学部を卒業後、大手監査法人にて公認会計士 として会計監査、内部統制監査を多数経験した後、ローランド・ ベルガーに参画 自動車、大手商社、ファンドなどを中心に、多数クライアントに おいて成長戦略立案、海外事業戦略立案、企業価値評価、コスト 削減などのプロジェクト経験を有する。
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