第23回:部下に自己決定感を持たせることの大事さと、その具体的な方法:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
自己決定感が担保できるとモチベーションが高まる」という法則がある。同じ決定内容でも、上司など他の人が決めたことには反発し、自分が決めたことには同意する。人間の心理とはそういったもの。
部下に任せることが怖い上司がやるべきこと
前回話した<この指に止まって>という考え方が「求心力」だとすれば、「遠心力」を効かせるという方法もあると伊庭さんは言います。
「遠心力」とは、重要な役割を部下に分け与える権限委譲のことを意味します。「この役割を任せたいと思っているぞ。よろしくね」という、<重要な仕事を任せられた感>を部下が持てているかどうか。任せているということは、期待していることを意味しますし、同時にメンバーの育成の観点もあります。
そうは言っても、分かってはいるものの、上司がなかなか手放せないということもあります。任せて失敗するリスクが怖い場合は、まず、一番のリスクは何かを考えましょうと伊庭さんはアドバイスします。
例えば、「目の前の失敗はリスクでしょうか。それとも将来へ向けての投資でしょうか」と考えた場合、ここで言う<失敗>の定義を明確にするのです。
<失敗>とは、基本的には取り返しの付かないことを指します。取り返しが付いてそれがその後の改善や学習につながるのであれば<投資>になります。すると「ほとんどのことは投資になる」と上司は気付くのです。
「任せることが増えるという前提があった上で、何が失敗かをちゃんと自分なりに定義し、“100点を目指そうとしない”のが大事かなと思っています。本には具体的に“70点でいいですよ”と書いています。30点は思うようにならないことばっかりです、と」(伊庭さん)
1人の課長の判断のしくじりでつぶれる会社は、そうそうない
売り上げの点でけっこうなリスクがあったとしても、重要なお客さまを部下に任せましょう。ここで想定されるリスクは、お客さまから「やっぱり昔に戻して。伊庭くん担当して」と言われるか、売り上げが落ちてしまうか。もしくはそういうチャンスが、ライバル企業に行ってしまうか。
「これらについて、予防策は打てることばかりです。じゃあかたち上は私とペアで担当すればいいか、とか。もし担当を戻してと言われた場合は、別に戻せばいいじゃん。これでリスクはないな、と。つまり、予防策と事後対処をある程度自分でイメージしていれば、リスクは潰せると分かります。なので、想定されるリスクを考え、それに対する予防策を立て、もし起こった時の事後対処ができていれば“任せられるじゃん”実際に任せられるようになりました。」(伊庭さん)
もっと引いて俯瞰的に見ると、管理職クラスがやっていることが失敗したぐらいで会社がつぶれることは100パーセントないのです。とすれば、何を自分は、おこがましいことを考えているんだ、と。1人の課長が判断をしくじっただけでつぶれる会社はそうそうない。
「“じゃあ何を俺はおごっていたんだ”と途中で思い始め、そのあたりから、任せるほうが格好いいと思うようになったんです」と伊庭さんは回想します。
全くその通りですね。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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