ランチェスター戦略と不測の脅威への対応:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
ランチェスター戦略は、需要が低迷し、多数の企業が顧客を奪い合うシェア競争を繰り広げるマーケットで、「劣勢にある商品や企業が、大勝を狙わず、小さな勝利を積み重ねて優勢に転じる弱者の戦略のフレームワークを提供する」競争戦略論です。
不測の脅威への対応
どんなに理にかなった戦略も、その実行を危うくする不測の脅威に、次々と襲われます。これらの問題に、現場や部門リーダーが、素早く対処していかなければ、ランチェスター戦略も足許から破たんしていきます。そこで、それらのリーダーが、不測の脅威にいかに対応すべきかを、アメリカ陸軍の最新の指揮官マニュアルをベースに、『ランチェスター思考II:直観的問題解決のフレームワーク』2010年で論じました。ちなみに、そのマニュアルでは、意思決定と指揮(コマンド)を次のように分類しています。
- 直観的意思決定:得られた情報や観察だけで、直観的に状況を推定し、「ひとつの案を考え、決定する」
- 分析的意思決定:時間を掛けて情報を集め、状況をじっくりと分析し、「複数の案を考え、そのうち最も良いと思う案を選択する」(=ロジカルシンキングによる意思決定)。
- 任務指揮(ミッション・コマンド):任務を与えるが、いかに任務を達成するかは部下にまかせる。
- 詳細指揮(ディテイル・コマンド):任務を達成するための行動や手段方法を具体的に指示する。
その内容は広範多岐にわたりますが、その一部を以下に抜粋しましょう。
意思決定(ディシジョンメーキング)
1. 完全な情報や解決にこだわらず、直観的意思決定により素早く決定する
2. 受容可能なリスクを素早く決める
3. できるだけ多くの情報源にあたる
4. 絶体絶命の状況におちいったなら、希望を基にして、強行突破をはかる
5. 状況に合った計画を作成し、計画に合わせて状況を作為してはならない
指揮・統制(コマンド アンド コントロール)
1. 任務指揮を励行する
2. 任務指揮を実行するため、部下の教育・訓練をしっかりとし、また、不在指揮(間違った行動をしても注意しないこと)で失敗経験を積ませる
3. 部下の忍耐力の限界を認識する
4. 部下の目をのぞき込み、フェイス・ツー・フェイス・コミュニケーションを心がける
ランチェスター戦略にせよ、指揮官マニュアルにせよ、現実をふまえて開発されたため、めりはりのきいた活動を展開している企業のトップやミドルにとっては、とっくに実行している事項がほとんどです。しかし、それらに基づいて、改めて、現状を体系的にチェックし、やるべきことと、やってはいけないことを確認することが、事業や商品のサステナビリティ(持続可能性)を高めるのに役立つと確信しています。
著者プロフィール:福田秀人
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了(産業関係論専攻)。以後、販売戦略の見直、管理体制整備、会社再建支援、危機管理などに、コンサルタントないし会社役員として従事。立教大学大学院危機管理学教授、放送大学客員教授、横浜国大、慶應大、法政大、外務省ロシア支援プロジェクトなどの講師、などを歴任。現在、サステナブル・リサーチ代表(主業務は、役員・管理職研修、官僚化対策、CSR推進支援)、大阪産業大学客員教授、立教大学ESD研究センター研究フェロー(CSRチーム)、海上自衛隊幹部学校講師(組織・統率論)、航空保安協会評議員、大阪科学技術センターMATE研究会アドバイザー。信条は「着眼大局・着手小局」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 勝ち残る会社の成長戦略とは
先の見えない景気のなか、企業は生き残るのではなく勝ち残らなければ、会社は永続できない。 - 『実践するドラッカー』誕生秘話〜実践に込めた想い
わたしには、40回読んでいる本があります。著書名は『経営者の条件』。わたしの人生を変えた本です。 - ITで生産性を高める組織の作り方
ITが仕事の生産性を高める手段であることは間違いないが、IT化すれば生産性が高まるとは限らない。その見極めこそが、リーダーにとって大切な能力である。 - 残された時間を価値あるものに
限られた時間を有効に使うためには、時間だけではなく価値を管理する必要がある。人生も仕事も楽しめるタイムマネジメント方法とは。 - すぐに使える「二項対立」の視点
あなたの意見を通したいときは、対立している相手が問題としている点を解決しなければ前へは進めない。15の視点で捉えてみる。 - ストレスからモチベーションへ
ストレスが感じられなくなる姿勢があるという。自身のストレスをコントロールしてポジティブに暮らせる訓練とは。 - 「レストラン」の経営からマネジメントを考える
「興味の見える化」をすると、やりたかった仕事、得意な仕事が見えてくる。競争力のある現場は適材適所から。 - ビジネスに活用するねたみ力
ねたみの感情は誰にでもあるもの。封じ込めておかずに、取り出して理解することで自分の成長につなげることができる。 - 「いい会社」に共通する4つの特徴
財務的業績が高い会社、超長寿企業、働きがいのある会社に共通する特徴は、どの会社でもできそうでできないこと。 - きちんとした食習慣を身に付けることは自分への確かな投資
食べているものが体にどのような影響を与えるか考えてみる。古い食習慣を見直し、新しい食習慣を始めてみてはいかがだろうか。 - 日本丸再浮上のために
大胆な方針と強烈なリーダーシップが求められる今、政治の世界に経済界の人材投入が必要。国家運営に会社運営のセンスを。 - ネットならではの顧客感情マーケティング
ネットビジネスで成功するにはその特徴を理解する必要がある。デジタルな世界だがアナログなアプローチが強みを発揮する。 - 改善から革命へ 不可能を可能にする時間管理術!
与えられた時間はみんな同じだが、時間の生み出し方、効率化は「反常識の仕事術」で変えられる。 - 「ラッキー」をつかみ取る技術
「これ以上ないと思えるほどラッキーな人生を送っている」ラッキーな人の特徴とは何か。 - テレビを使って1000万人にPRできれば売り上げがあがる!
大好きな相手にラブレターを書くように、プレスリリースを書く。テクニックを身につければ商品ヒットにつなげられる。 - 分かっていてもできていない社長のための勉強法
時間のないビジネスマンが勉強するには、勉強上手な人の方法を取り入れるのも効率化の1つ。情報を理解して実践するために勉強は必要である。 - 人が育つ企業に共通する上司像とは?
人を尊重する会社は業績も向上する。部下に愛情を注ぎ、仕事へのチャレンジを喜びとする魅力的な上司になろう。 - 資金繰りの悩みは「お金の見える化」でスッキリ解決!
企業の存続に欠かせない資金繰り。なぜか悪化するときは突然である。経済危機がひとまず収まった今、資金繰りを4つの通帳で管理してみてはいかがだろう。 - あなたの人材価値は、ここで判断されている!
この厳しい時代でも人材は必要とされている。実際の年収を超えた価値が提供できるか、その価値が世の中で認められているか。成功している経営者やリーダーから学ぶ人間力とは。 - 会社は部長につぶされる!
今すぐ会社を変えたいのならまず組織作りから。会社をつぶすのも、成長させるのも部長に懸かっている。 - 大きな器のリーダーを目指そう
なぜ、「あの人と一緒に働きたい」「あの人について行きたい」と思うのか。リーダーシップは右脳的か、左脳的かで分けられる。 - メールでモテるための3カ条
メールは伝達の方法として便利なだけではない。言葉の使い方しだいでは、見えない人との深いコミュニケーションを生み出すことも可能なツールだ。 - 「あなたのBest」でなく結果を出して――ビジネス英語に必要なネイティブ感覚
「洗練された英語を話したいがどうすればいいのか……」と考えたことがあるビジネスマンは多いだろう。一流のビジネスマンのように話したければ、一流のビジネスマンのスピーチをまねることから始めてみてはいかがだろうか。 - 「離れる勇気」を持つことが問題解決のコツ
手段ばかりに気を取られていると、目的を見失ってしまうことがある。問題を解決するには意識を変えて本質をとらえることが肝要だ。 - トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社
戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。 - “ギスギス”する職場、その背後にある見えない問題とは
社員の不満を解消することで、働きやすい職場を作ることができるかもしれない。だが、それによって企業の業績が向上するかどうかは別問題であるという。 - 女性カウンセラーに悩み相談:リーダーシップのスキル向上は何をすれば認めてもらえるか?
勤務評定で「本年度はリーダーシップのスキルを磨くように」と上司から言われたが、具体的に何をすればスキルの向上を認めてもらえるのか?――リーダーシップに必要な3つの条件を理解しよう。 - 職場改善道場:社員と対話しないリーダーを見過ごすな
組織における問題の多くはコミュニケーションに関係する。ただし社員同士がやみくもに対話の量を増やせば解決するものではない。組織の中核となる人物の行動が鍵を握るからだ。