リーダーが「忘れてはいけないこと」「縛られてはいけないこと」:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
リーダーシップは「他者をどう動かすか」を論じることが多いが、他者に動いてもらうためには、リーダーが己のあり方を自ら質し、問い続ける力が必要なのではないだろうか。
この数年で見えてきた新たな難所
2007年からの5年が経ちましたが、この間わたしは講師の立場で約6000人のビジネス・リーダーと企業研修やグロービス経営大学院で議論をしてきました。その結果新たな難所が見えてきた実感があります。その現場感を紹介します。
新たな難所とは「継続の難しさ」です。ビジネス環境が、低成長(国内)×不透明×不安定の“三重苦”に苛まれる中、物事を適切に持続させる難易度は相当高まっています。わたしが担当したプロジェクトから象徴的風景を紹介します。これはあるリーダーが考える方針を自組織に1年がかりで浸透させようとするプロジェクトの途上で「継続の壁」にぶち当たった際に、わたしと彼との間で交わしたメールの内容です。
わたし:なぜ「やり切れない」のですか? あえて問います。「あなたが決めた大方針は心の底から実現したい、実現せずにはいられないと一点の迷いもなく言い切ることができますか?」あなたが高い使命感を持って日々取り組んでいることは重々承知しています。が、だからこそ、その使命感(分かりやすく言えば「べき論」)に縛られていませんか?
「大方針を実現することは本当に嬉しいですか? それは本心からの喜びですか?」この問いに一点の曇りもなく“Yes”といえるのであれば、さまざまな阻害要因があっても、“行動を続けられる”、もっといえば“行動せずにいられない”のではないでしょうか。本質的には「二度ない人生をいかに生きるか」「選択した職業、人生の多くの時間を投資している仕事を心底楽しむように自らを導く」ことを改めて自問してください。「自分の本当の喜び、動機の源泉を知る」ことがエネルギーの源になるはずです。
彼:2つのことに気付きました。1つは「誰のための大方針なのか? 何よりもまず、自分自身のためのものでなければいけない。つまり、他人に伝える前に、自らの人生を通じて貫きたいと思うものでなければいけない」。同時に「その実現は他者もメリットを共有できて、幸せになれるものでなければならない」。この2つを備えて初めて、自らが執着を持って継続的に取り組むことができる(継続の力)のではないか? と。
リーダーが忘れてはいけないものと、縛られてはいけないもの
既に気付いている通り、リーダーが忘れてはいけないものは自らの本心から湧きあがる「願望」です。同時に「ねばならない」という“借り物の使命感”に縛られてはいけないのです。
不透明な時代だからこそ、「未来は予想の対象」でなく「未来は意思で創るもの」という発想が大事です。重要な自問は「自分は何者なのか」「何がしたくて人生を生きているのか」こうした根源的なものです。別の研修で一緒になったリーダーのコメントを最後に紹介します。
自分を動かすエネルギーは願望であることに気付いた。これまで相反事項の調製にバランス重視を心掛けてきたが、実際はバランスの軸をどこに置くかという自分の意思決定がブレていた。
自らの志と生きざまを問い直すことがわれわれには求められているのだと思います。そしてその事が分かると、人生は一層豊かなものとなるのです。
著者プロフィール:鎌田英治
北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(業務プロセス再構築)、人事部(採用、能力開発)などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、グループ人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、オーガニゼーション・ラーニング部門カンパニー・プレジデントを経て、現在はChief Leadership Officer(CLO)兼グループ経営管理本部長。講師としては、グロービス経営大学院、グロービス・マネジメント・スクールおよび顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。
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