第三幕:演技
演出家が俳優に出す一般的な指示には、「ステージを支配しろ!」や「スポットライトを自分のものにしろ!」などがあります。俳優はステージを支配し、観客に見ているシーンを現実だと思わせなければなりません。これと同じで、営業マンもプレゼンテーションを支配しなければなりません。複数の人に向かってプレゼンする場合は特にそうです。
ボディランゲージを使って要点を強調するなどして、俳優のようにコミュニケーションを取って下さい。その際、適切な身ぶり手ぶりを使って下さい。また、舞台の振り付けをして下さい。振り付けとはつまり、プレゼンテーションの間どこに立ち、どこを見て、どう動くかあらかじめ決めることです。また、聞き手とアイコンタクトを取り、笑顔で話すことが大切です。
一緒に演じている俳優からの合図を無視すると、その場の空気を壊してしまいます。俳優のロバート・レッドフォードが言うように、「演じる上でとても大切なことは、注意を払うこと」です。見込み客に注意を払っていますか? 多くの営業マンが、線路を猛スピードで突っ走る列車のように急ピッチでプレゼンテーションをこなし、見込み客が無意識のうちに発している合図に気付かないということがあります。
例えば、身構えるように腕を組んでいたり、不機嫌そうに眉間にしわを寄せていたりするかもしれません。そういった合図に気を付けて下さい。一人芝居をするのではなく、見込み客と会話をして下さい。自分がどのような印象を持たれているのか観察し、その場の雰囲気に合わせてプレゼンテーションを調整して下さい。積極的に見込み客の話を聞きましょう。
舞台の上で小道具が上手く使えなかったり、突然壊れてしまったりしては、俳優は恥をかき、演技はぶち壊しになってしまいます。そのため、心得ている俳優は、舞台が始まる前に必ず小道具をテストします。
営業マンも同じことをするべきです。パワーポイントのスライドを実際に映し、フリップチャートや製品モデルなどを確認して下さい。トーストマスターズ・インターナショナルによると、視覚資料の無いプレゼンテーションでは、1週間後には聞き手は聞いたことのわずか10%しか覚えていないとされています。しかし、視覚資料を使った場合、その率は67%になります。
多くの俳優が「舞台負け」に悩まされています。舞台負けとは、演技の前に緊張のあまり体が硬くなってしまうことです。しかし、ベテラン俳優はこのよくある問題を様々な方法で乗り越えています。まず、彼らは舞台の準備を完ぺきにしておきます。目の前の舞台に意識を集中させ、「直前テクニック」を使います。そして、舞台に上がる前に身体の緊張をほぐします。営業マンも、舞台裏の緊張感をエネルギーに変えることで、人の心をつかむパフォーマンスをするために必要な力を手にすることができます。そして、それによって素晴らしいプレゼンテーションを行うことができます。
素早い判断が下せない俳優は、素早く考え対応しないと舞台が台無しになってしまうような舞台中の事故に、遅かれ早かれ見舞われます。また、セリフを忘れたり、合図を見逃したり、台本に書かれていないことをする俳優もいます。そのようなことが起こっても、機敏な俳優はすぐさまその場に合ったアドリブで対応し、観客の注意を舞台上の問題から逸らさせます。
営業マンもまた、営業活動の中で、アドリブで対応する必要がある場合があります。例えば、見込み客側のあるグループ向けにプレゼンテーションを準備して行ったのに、実際に待っていたのは考え方の違う全く別のグループだったという場合もあり得ます。
このような状況に備えるには、俳優と同じ手を使って下さい。つまり、状況に対応しアドリブで演じて下さい。シンガーソングライターのポール・サイモンが言うように、「(インプロビゼーション)アドリブは、偶然生まれるのを待っていてはもったいない」のです。
邪魔者や障害、困難が素晴らしいドラマを生み出します。「ルディ/涙のウイニング・ラン」という映画を考えてみて下さい。この映画は、ノートルダム大学のフットボールチームでプレイするために、小柄な選手が巨大な壁を乗り越えて行く姿を描いたものです。営業マンは障害を回避する方法を見つけなければなりません。営業マンがぶつかる障害には、顧客の異論や、新たな購入を不可能にする恐れのある、予算削減など外部の障壁が考えられます。
できる限りの情報を集めることで、そのような障害物に対処して下さい。障害のせいで契約の成立を妨げられてはいけません。また、調査によると営業マンの44%がたった1度電話をかけただけで、その後その見込み客と連絡を取っていないことが分かりました。しかし、ほとんどの営業が、4度目の電話以降で成功しています。粘って下さい。
演技を成功させるためには、その演技が現実のできごとであると思わせねばならないということです。言葉の抑揚ばかりでなく体全体を使って表現をすることが望まれます。 しかも、自分の演技だけに集中してしまうのでなく、その場の雰囲気、つまり顧客がどういう反応をしているかに常に注意すること。そしてそれに合わせていかねばなりません。また演技に使う小道具をフル活用して行きましょう。プレゼンなら、パワーポイントのチャートや図、そして製品サンプル等が挙げられます。
もちろん、予測のできない突発的なことが発生するかもしれません。そういったときのためのアドリブができるようにすることも営業としては必要なことでしょう。
著者紹介
ジュリー・ハンセンは、元営業幹部です。アクティング・フォー・セールス・コンサルティング社のオーナーであり、コラムニストです。頻繁に講演を開き、デンバー大学で演技を教えています。
プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長
経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。
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