「“具体的”であることだけが本当に良いのか?」――「具体と抽象の往復」で考える:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
「あの人の話は抽象的でさっぱりわからない」「抽象論はやめて具体的な話をしよう」……。このように、「抽象」という言葉がビジネスの場面で使われるのは、圧倒的に否定的な文脈においてでしょう。「具体が善で抽象は悪」……これは本当なのでしょうか? 本当は「具体と抽象の往復」こそが、ビジネスをうまく進める秘訣なのです。本稿では特に、必要以上に不当な評価を受けている「抽象」の有効性について考える。
仕事の自由度
仕事を頼んだり頼まれたりするときにもこの「具体と抽象」という視点を持つことは非常に重要です。例えば仕事を頼まれる場合にも、具体的な依頼を好む人と、むしろ抽象的な依頼の方を好む人がいます。
「なんか斬新な企画考えてよ」と言われた場合、具体的な依頼を好む人はこれを不快に感じて、「それじゃよく分かりません。どうして私にどうして欲しいんですか?」という反応になります。対して抽象的な依頼を好む人は「好きなようにやっていいんですね!?」と目を輝かせることになります(「丸投げ」をポジティブにとらえるかネガティブにとらえるかの違いです)。
ここでの「具体と抽象」というのは「自由度の違い」を意味します。つまり具体的であるというのはよくも悪くも自由度が低いために、解釈が固定されますが、抽象的であると解釈の自由度が大きくなり、これを愉快に思う人と不快に思う人が出てくるのです。具体レベルの指示だけでは「言われたことしたやらない」部下が育ち、抽象レベルの指示だけでは、誤解が生じやすくなったり具体的な行動のフォローが甘くなったりしてしまいます。
何気ない職場の上司と部下の間での指示の内容にも、さまざまな抽象度(自由度)のものが存在していますが、相手の思考によって「具体か抽象か」をうまく使い分けることが、被依頼者のモチベーションを上げて仕事をスムーズに進めるためのコツということにもなるでしょう。
理想か現実か?
組織の中ではさまざまな目標が設定されます。また個人のキャリアプランにもいろいろな目標がありますが、ここにも「具体と抽象」という視点が重要です。例えば、
- 「教育を通じて社会貢献をしたい」
- 「算数のスマホアプリを今月は最低20本は売り上げたい」
という2つの目標があったとします。これらのうちどちらが「志が高い」と思えるでしょうか? 当然前者でしょう。ではどちらが実現可能性が高いでしょうか? これは逆に後者ということになります。つまり、具体的な目標は現実性や実現性も高い反面で、短期的で卑近なものとなりがちです。反面抽象度の高い目標というのは長期的で大きな理想を語るには適当ですが、漠とした実現性の乏しいものになりがちです。
したがって、これらは片方だけでなく、両者を有機的にうまくつなげた目標設定が有効ということになります。つまり、具体と抽象はセットで語られるべきものだということなのです。
経営者が「崇高なビジョン」を語るのを見て、現場の従業員が「それより先に経費精算ソフトのバグをなんとかしてくれよ」などという構図は組織でよくある話ですが、それも「具体を見ている人」と「抽象を見ている人」との間のコミュニケーションギャップと言えます。
具体と抽象の往復が重要
ここまで述べてきたように、ビジネスの場面で重要なのは、具体的な事象を見るだけでなく、これらを抽象化した上位概念もセットで考えることです。どちらか一方ではうまくいかず、「具体と抽象の往復運動」をすることが重要なのです。
最後にもう一つ、「具体と抽象」を語る上で注意すべきは、抽象度の高い話は「分かる人にしか分からない」ということです。つまり具体の世界と抽象の世界の関係は「マジックミラー」のようになっており、具体の世界のみの住人には抽象の世界のことが見えないのです。そのことでよく前述のケースのようなコミュニケーションの行き違いが起こります。
重要なことは、なんらかの抽象レベルの理解が存在していることが共有されることです。それによって上記のコミュニケーションギャップも完全に解決はできなくても、両者の理解を格段に向上させることが可能となるでしょう。
著者プロフィール:細谷 功(ほそや いさお)
ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- リーダーは「孤独」を楽しめ――死ぬ気で働くリーダーにだけ人はついてくる
- 学歴や能力以上に大切なモノがある。それは、「好かれる」こと
- 銀座のママが教える、ビジネスパーソンが持つべき「心意気」とは?
- サイバーエージェント出身起業家が教える「ズバ抜けた結果」を生むメンバーの育て方
- 90日プランで見える結果をすぐに出す「初速思考」
- 吉田美和の歌詩で心を耕し、仕事への活力を養う
- 日本にこそ「クラウドファンディング」。その魅力とは?
- メンタルヘルスに強いリーダーになる! 簡単な方法
- 一流の人は真正面からうけとめない。「正攻法」を放棄するという「成功法」
- 物事の本質を見極めれば、グローバルに成功できる
- 葛藤を引き受ける覚悟がリーダーを成長させる
- 「仕事ができる人」より、「品のある人」が、チャンスをつかむ
- 「仕事づくり」でもっとも大切な考え方と行動
- 説得せずに説得する
- 「第8の習慣」が提示する、真のリーダーシップとは
- ダメ会議をやめたら会社が生まれ変わる!
- 逆境を一瞬で打破した人々が体得した「努力」×「閃き」の法則
- うまくいく人とうまくいかない人の違いとは?
- ビジネスに効く最強の「読書」
- 行動科学で組織の成果を上げる
- コーヒー業界から最新ビジネス戦略が分かる――「戦略は“1杯のコーヒー”から学べ」
- 「社畜脱走計画」のために知っておかなければならないこと
- 仕事に効く教養としての世界史
- 上司の機能を使い倒せる社員こそが、会社を成長させる
- 10年後も見た目が変わらない人
- 「本物の勉強法」──「試験」「仕事」に、一生使える勉強法
- 成功者になれる人にしか理解できない!? プラスの現実逃避
- チームシップが企業に与える影響とは
- 「三菱商事の鈴木です」と言う自己紹介は世界標準ではありません!──グローバルに活躍する技術
- 稼ぐ人はなぜ、1円玉を拾うのか?
- できる経営者は会社を作るとき明確な理由を持っている!
- 「数字、ファクト、ロジック」で物事はシンプルに決められる
- 世界をまとめて読む
- だから会議は意見が出てこない! 上司が言ってはいけない最大のNGワード
- 「あなたに会社をおまかせしたい」と言われる人は、何が違うのか?
- なぜ、あの動画ばかり再生されるのか? 2014年、動画最前線
- うそつきは「出世」の始まり!? できるウソのつき方とは?
- できるリーダーは3年戦略をきちんと創って進む!
- トップ1%のサッカープレイヤーに学ぶ成功哲学
- 仕事を「振る or 振られる立場」を巧みに使い分ける
- ダイエットの成功は仕事に何をもたらすのか
- 経営者・営業幹部必見! 社運をかけた「事業」を成功させる方法
- 成功の仕組みを借りて、自分の「ビジネスモデル」を作ろう
- 営業ならもっと数字で考えなきゃ!── 51のフレーズで学ぶ関西商人の魂
- 「惜しい部下」のスイッチはどこに?
- 優れたリーダーに必要な対話術
- 「それ、根拠あるの?」と聞かれた時の統計分析
- ビジネスパーソンのための英語は「どう話すか」ではなく「何を話すか」
- グローバルで活躍するための「考え抜く力」
- 今30代に求められるのは後輩を育て、上司を動かす「アニキ力」
- サラリーマンはなぜ、「社長」を目指すべきなのか?
- 部下を持ったら必ず読む「任せ方」の教科書