EV充電ステーション収益化に向けた2つの鍵〜価格弾力性の見極めと事業モデルの選択〜:視点(2/2 ページ)
活況を呈しているEV充電ステーション市場だが、収益化への道のりはまだ険しい。
収益化の鍵(2):事業モデルの選択
EV充電ステーションの特徴である「目的地」立地は、視点を変えると、多様な事業モデル創出の可能性を意味する。
EV所有者は一定の社会経済的地位を有する層が多く、消費目的が特定できれば広告事業モデルが成立する可能性が生まれる。米CPOのVoltaは2019年10月、無料の急速充電サービスを全米主要都市150か所に展開することを発表した。無料充電は30分間、走行距離にして最長175マイル(約280キロ)相当。年間で約1155米ドルの燃料費が節約できるという。収入源は、充電設備の側面スクリーンに掲載するスポンサー企業のデジタル広告だ。内燃機関(ICE)車に対する給油ノズル上の狭い広告スペースとは段違いの収益性を見込む。
あるいは、データ駆動型。無料のモバイルアプリを通じてドライバーを囲い込み、充電機器の仕様やCPOの違いを超えて膨大な充電データを蓄積するeモビリティサービス事業者(EMSP)。狙いは、交通事業者や自動車会社、電力会社、政府、旅行会社、商業施設などに対する付加価値提供による収益獲得だ。2020年9月、NYSE上場計画が明らかとなった、世界で11万5000超の充電ステーションを展開するChargePoint(米)。同社は、物件オーナーに対する独自開発の充電設備販売(または従量課金制でリース)に加え、ビッグデータ分析に基づくプライシングプラットフォームを提供。曜日や時間帯、顧客属性に応じたきめ細かな充電価格設定により、物件オーナーの収益化を支援する。
黎明期から真の成長期へ
EV充電ステーション事業は、プロダクト革新からプロセス革新フェーズへ移行していく。ワイヤレス給電やV2G(Vehicle to Grid)といった目先の技術革新にのみ振り回されることなく、立地特性に立脚した「価格弾力性」と「事業モデル」を直視した企業こそが、数少ない未来の勝者だ。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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