第29回:営業利益率50%のキーエンスに学ぶ組織作り&サービス作りの在り方:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
去年よりも今年、今年よりも来年、1人当たりの付加価値生産性を高めることを経営理念の最上位に置き、これに徹して経営や事業を推進している。
規模の拡大に依存したコスト競争は限界に達している
第1回の話でもありましたが、高付加価値であることと差別化の2つを満たすこと、そして差別化がないと価格競争になります。
一般的な日用品をメインで扱っている流通・小売会社だと、基本的には同じものを扱うからとにかく安くする。利益率はかなり極小ではあるが、プラットフォームでコストダウンすることが大事だから、とにかく規模を大きくする。
ただかつてはそれでやれていたのが、今はうまくいかなくなっています。スーパーや小売店と卸の間、メーカーの間の流通に差別化がなくなったからです。コスト競争は行き着くところまで行き着いてしまい、ほぼ利益ゼロになってしまいます。下手をするとそれでも売りたいために赤字セールスにまで突入しています。
コスト競争には限界があります。すると、お客様に対してどうやって差別化をするかがポイントになります。
流通・小売で差別化商品をPB(プライベート・ブランド)で出しているところはうまくいき始めているし、それがないとなかなか厳しいのが現状です。
このtoCにいかに強くなるかがポイントなのです。基本的にこれまで卸をやってきた人たちはtoCにとても弱い印象があります。
お客様の利用シーンの中にある困りごと起点で事業を動かす
結局BtoBでもBtoCでも変わらないのですが、ニーズとは「利用シーンの中にある困りごと」、これがキーポイントです。これはもう絶対に変わりません。
例えばキーエンスのセンサーであれば、工場という利用シーンの中にある困りごとを解決しているし、BtoCであれば、生活者の日々の生活の中にある困りごとを解決するのがBtoC商品です。
BtoBの製品だと例えばオフィスや倉庫などさまざまな利用場面がありますが、その中にある困りごとに対応するのがソリューションになります。「BtoBの利用シーンの中に、その製品が解決できる困りごとはありますか」というのが答えとなります。
この観点から海外と日本を比較すれば、日本のサービス品質の高さ、顧客の困りごと解決力の高さは目をみはるほどです。
日本の品質を踏まえて、それをプロダクトアウトではなく、各国現地のお客様それぞれの「求めていること(ニーズのレベル)」「困りごと」にしっかり対応して堂々と価格をつけて売れば、現地の商品・サービスに対して競争優位や差別化ポイントを持っている日本製品はとても多くあります。
そこに大きなチャンスがあることに、ぜひ私たちは気が付きたいものです。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEO
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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