仕事に効く教養としての世界史:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
将来何が起こるか分からない今、何が起こっても大丈夫なように歴史を勉強しなければならない。人間は将来を見通す上で、過去からしか学べない動物であることは既に1500年以上前に唐の太宗、李世民が喝破している。
21世紀の日本にとっては歴史が必須
歴史を学ぶ大切さは、特に21世紀の日本にとっては、切実です。なぜなら、20世紀後半の日本は「キャッチアップモデル(アメリカに追いつき追いこせ)」「人口の増加」「高度成長」という3つのキーワードで大略説明がつけられます。「キャッチアップモデル」の下では将来の見通しが比較的容易です。先行するモデル(アメリカ)に何年で追いつくかを仮置きすれば、逆算してその間の必要な成長率も出てきますし、そのために何をやればいいかもある程度はつかめる。
つまり、キャッチアップモデルの下では、将来何が起こるかがよく見えるのです。このような時代は、極論すれば、歴史に学ぶ必要もさほどなく、黙って言われた通りに働いていれば、高度成長の恩恵に与ることができました。これに対して21世紀はどうか。「キャッチアップモデル」「人口の増加」「高度成長」は「課題先進国(どこにも先行モデルがない)」「少子高齢化(人口の減少)」「低成長」とベクトルの方向が真逆になりました。将来何が起こるか分からない普通の時代に戻ったのです。だからこそ何が起こっても大丈夫なように歴史を勉強しなければならない、僕はそう信じています。
歴史はなぜ世界史なのか
最後に一言。歴史はなぜ日本史ではなく世界史なのでしょう。それは世界が交易などを通じて既に1つにつながってしまっているからです。例えば日本の株価を考えてみましょう。日本の事情を勉強しただけで株価の将来見通しをたてることができるでしょうか。誰が考えても不可能であることは自明です。もはや、他国や外国人投資家の動向を抜きにしてわが国の株価を語ることはできません。
このように、世界は1つになって久しいのです。僕は、極端に言えば、人間の歴史は文字が発明され記録が残っている「5000年史」1つしかないと考えています。そのことを、次代を担う若い皆さんに少しでも理解してもらいたくて「5000年史」の講義を続けているのです。この本をぜひ手に取って、世界は太古の昔からつながっているという実感を得ていただければ著者としてこれほどうれしいことはありません。「自分が生まれる前のことについて無知でいることは、ずっと子どものままでいること」(キケロ)なのです。
著者プロフィール:出口 治明(でぐち はるあき)
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。
主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く 教養としての『世界史』」(祥伝社)、「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。
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