脱炭素社会をシナリオプランニングする〜ESGロードマップ構築に向けて〜:視点(2/2 ページ)
今こそ脱炭素化を機会と捉え、2050年を見据えた包括的なESGロードマップを描画する時だ。
シナリオ#1:脱炭素の創造競争社会
第一象限は、「民」主体の創造的破壊シナリオ。2020年半ば、アフリカと南欧を干ばつが襲い、多くの気候変動移民が発生。その他地域にも異常気象が多発。修復不可能な環境破壊を目の当たりにして、いよいよ社会が目を覚ます。持続可能な生活様式が定着、消費者は購買行動を通じて企業に行動変容を迫る。ESG(環境・社会・ガバナンス)思考が企業活動の隅々にまで浸透。サステナビリティは企業戦略と密接不可分に、「社会への還元」こそが企業の存在意義(パーパス)となる。
シナリオ#2:強制的な環境規制社会
第二象限は、「官」主体の創造的破壊シナリオ。各国がパリ協定順守を強力に主導。温暖化は1.5℃未満に、貧困の拡大にも歯止めがかかる。2050年カーボンニュートラルでは不十分とされ、企業にはカーボンネガティブ規制が適用される。企業間の自由競争は弱まり、政府の指導の下、企業収益の一定割合をグリーン新技術開発に投下。脱炭素化のみならず、国連SDGs17目標達成に向け、企業業績は政府が配分した予算(CO2排出量、水使用量など)の達成度で測られる。
シナリオ#3:最小限の義務遂行社会
第三象限は、「官」主体の逆回転時計シナリオ。政府は変革の必要性を認識するも強制力不足。企業はうわべだけの環境施策(greenwashing)で体裁を取り繕い、従前の経済活動を遂行。一部地域でEVやFCVの普及は進むものの、地域横展開は限定的。グローバル化は後退、ナショナリズムが進行、あらゆるグリーン新技術は自国のためにのみ活用される。環境税が導入されるも、タックスヘイブン活用などで骨抜きに。結果、温暖化が進行、国連SDGs17目標も達成されない。
シナリオ#4:野放図な利益追求社会
第四象限は、「民」主体の逆回転時計シナリオ。2020年代の各国の取り組みは雲散霧消し、環境問題は消費者や企業に任される。企業は短期利益最大化を追求、消費者は持続可能な社会の必要性を理解するも、従前の生活様式の変更には否定的。石化燃料依存が続き、CO2排出量は拡大の一途。企業間取引の最優先事項は価格となり、循環型社会は夢のまた夢。結果、修復不可能なまでに環境破壊が進行。国家間格差は更に拡大し、途上国の重労働や児童労働問題も解消しない。
包括的なESGロードマップ
望ましい未来シナリオが「#1:脱炭素の創造競争社会」であることは論をまたない。生産年齢人口におけるZ世代(1990年代後半〜2000年代生まれ)の存在感が増すにつれ、消費者の購買行動や企業活動の変化は加速するだろう。例えば、英スタートアップのYayzy。購入品毎のCO2排出量を自動計算、環境影響を即時確認可能なスマホアプリを開発。排出されるCO2を相殺するための情報も提供する。CoGo(ニュージーランド)、Doconomy(スウェーデン)など、類似サービスを提供する企業も少なくない。
今こそ脱炭素化を機会と捉え、2050年を見据えた包括的なESGロードマップを描画する時だ。答えるべき問いは、変わるべきか否かではない。いかに早く変わるか、そのための運転席に誰が座るか、だ。(図A2参照)
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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