データ駆動型経営の現在地と未来(前編)〜DIDM(Data Informed Decision Making)とKKD〜:視点(2/2 ページ)
DX推進の鍵として注目されるデータ駆動型経営。根幹にあるのは全件全量全粒度データ分析に基づく意思決定。
もちろん、経営は「ばくち」ではない。致命傷は確実に避けなければならない。だからこそ、過去の法則探索や法則に基づく予測と最適化は最短距離で駆け抜けたい。機械学習/AIによって飛躍的に進化したDDDMは、致命傷回避の大いなる武器だ。しかし、KKDはDDDMの対立概念ではない。DDDMと垂直に交差し、複素平面を構成するY軸だ。
DDDMとKKDを融合させ、「感覚神経」(データを察知する力)、「中枢神経」(データを解釈する力)、「運動神経」(施策を断行する力)を高次元でバランスさせる経営こそ、VUCAを生き抜く鍵だ。
中途半端な演繹解を徹底排除し、機械学習/AIを駆使し全件全量全粒度データに語らせ、そこから得られた帰納解(DDDM)からのジャンプ(KKD)に経営の意思を込める。このDDDMとKKDの融合を、狭義のDDDMと区別し、“DIDM(Data Informed Decision Making)”と呼ぶ。DDDMで「今日の最適解(a)」を客観し、KKDで「明日の最適解(+bi)」を主観する。「模倣」でも「ばくち」でもない「決断(a + bi)」こそ、真の意思決定(DDIM)。KKDを刺激するという観点に立てば、Data Inspired Decision Makingともいえる。(図A2参照)
注2:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity(曖昧性)
非合理がもたらす大勝利
時は19世紀初頭、ナポレオン時代。ナポレオン戦争の分析を通じ、近代戦略理論が確立した。「戦争術概論」(仏:“Precis de l'art de la guerre”)を著したアントワーヌ=アンリ・ジョミニ、「戦争論」(独:“Vom Kriege”)を書したカール・フォン・クラウゼヴィッツ。近代戦略理論の二大巨頭だ。
ナポレオンの補佐官であったジョミニは、戦争には不変の法則があるとし、環境要因を排除した戦略理論("How to Win")を導出した。対するクラウゼヴィッツは、プロイセンの将校。「戦争は不確定で計画通りには常に進まない」とし、事前情報の不確実性や天候といった不確定要素を「戦場の霧」、計画と実行の齟齬を「戦場の摩擦」と表現。常勝法則を離れ、組織内外の環境要因も含めて考察(“What is War”)した。
経営に例えるなら、「戦場の霧」を晴らすのに寄与するのが機械学習/AI。しかし、全ての霧は晴れることはない。情報伝達の過誤や意図の誤解、想定外の異業種参入といった「戦場の摩擦」を受け入れ、迅速に決断し続けるのが経営だ。「計画が練り切れていない」から負けるのではない。「決断力が足りていない」から負けるのだ。
DIDMはKKD 2.0の起爆剤に他ならない。データ駆動型経営を、DDDM(実数)とKKD(虚数)の対立概念で捉えることなく2軸(複素平面)で理解することが、DX、ひいてはCX(Corporate Transformation)の第一歩だ。経営は、論理3割、情理7割。経営者が理を語れば、社員は理を超えられない。“理外の理を知る”。松下幸之助の金言を肝に銘じたい。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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