がんを克服するためにすべきこと知っておきたい医療のこと(1/2 ページ)

治療が困難ながんも存在するが、誰にでも日常的に発症し得る疾患であること、早期に発見して適切な治療を施せば治すことができる疾患であることを認識して対応して欲しい。

» 2016年05月18日 08時00分 公開
[阿保義久ITmedia]

 日本のがん医療において改善すべき課題のひとつが、社会の中核世代のがん死亡率を下げることだと前回の連載で述べました。それを実現するためにどうすべきなのかを今回は考察したいと思います。

 がんを克服したかどうかを評価する指標に「5年生存率」がありますが、算出方法の違いで「実測生存率」と「相対生存率」に分けられます。治療によってどのくらいの方ががんを克服したかを示すものとしては後者の相対生存率が適しています。

 例えば5年相対生存率とは、対象となる集団全体で5年後に生存している割合と、がんの治療を受けた人が5年後に生存している割合を比較したものです。これが100%に近いほど「治療で救えるがん」、0%に近いほど「治療しても救えないがん」ということになります。

 2015年の国立がん研究センターの発表では、この5年相対生存率は全国平均では64.3%、各都道府県の中では専門病院や大病院が多い東京が74.4%で第一位でした。また、本年1月に全国がんセンター協議会から「がんの10年生存率」が公表され、全てのがんの全ての病期(ステージ1〜4期)をまとめた10年生存率は58.2%でした。ただし、検証の対象となったのは1999〜2002年に診断・治療を受けた方々なので、がんに対する治療技術が進歩した現在であればさらに良好な成績が見込まれます。

 すなわち、早期診断と適切な治療を施すことにより、がんの60%は10年以上の長期の生存が期待できる時代になってきたわけですから、がんを高血圧や糖尿病などと同様に慢性疾患と捉える考え方が広まってきています。ところが、多くの方が「がんは珍しい疾患で発症すると致命的」という誤ったイメージを未だに持っているようで、このことががん検診の忌避や診断後に社会から不当な扱いを受けることに繋がっていると言えます。

 確かに治療が困難ながんも存在しますが、「がんは誰にでも日常的に発症し得るありふれた疾患であること」と「早期に発見して適切な治療を施せば完全に治すことができる疾患であること」を認識して対応すべきでしょう。

 さて、日本のがんの現状はどうなっているでしょうか。部位別にがんによる死亡率を見ると、男性の1位は肺がんで、以下順に、胃・大腸・肝臓・膵臓、女性の1位は大腸がん、以下、肺・胃・膵臓・乳房です。また、死亡者数の推移については、胃がんや肝臓がんは減少傾向にあり、急激に増えているのは肺がん、漸増しているのが大腸がん、乳がんです。胃がんや肝臓がんが減少しているのは、これらのがんの多くが細菌やウイルスにより発生することが解明され対策が講じられたからでしょう。一方、欧米型のがんと言われている肺・大腸・乳腺のがんはその対策に課題が残されています。

 先述の10年生存率の調査報告によると、がんの種類によって生存率がほぼ100%のものから0%に近いものまで大きく異なることが分かります。例えば、生存率が大きいがんは、甲状腺がん、皮膚がん、前立腺がん、膀胱がん、喉頭がん、乳がん、子宮体がん、子宮頸がんなどです。そして、早期に発見できれば生存率が大きいのは胃がん、大腸がんで、早期発見が難しく、生存率が低いのは膵臓がん、胆道がんです。

 また、国立がん研究センターが2013年に集計した主要ながんの診断時の病期(ステージ)の割合を見ると、胃がんは早期(ステージ1)で発見される割合が60%以上であるのに対して、肺・大腸・膵臓ではステージ1で発見されるのは40%以下です。肺がんや膵臓がんは早期発見が難しい場合が多いのでやむを得ないかもしれません。しかし、大腸がんに関しては便潜血検査や大腸内視鏡検査など早期発見の手法が確立されていることを考えれば、無症状のうちに検診を積極的に受ける人が少ないために進行がんで発見されることが多いと言えます。

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