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» 2008年07月01日 07時30分 UPDATE

カジノ業界で経験を積んだ医療CIO:いばらの道を歩んだ、がんセンターのIT構築【前編】 (1/2)

ワールドクラスの医療センターを作るために必要なのは、莫大な予算だけではない。システムの構築から医師との協力関係まで、ネバダがんセンターCIO、フェアクロース氏のケースとは?

[Michael Ybarra,ITmedia]

 リチャード・フェアクロース氏はネバダがんセンターのCIO(最高情報責任者)に就任したとき、幸運をつかんだかに見えた。

 フェアクロース氏は、カジノ業界からの多額の資金協力を得て造られていた最先端の医療施設のITを統括することになっていた。しかし、ラスベガスではよくあることだが、現実は夢とは程遠いものだった。

 ネバダがんセンターは同市内の砂漠の近くに個性豊かな新施設を建設していた。だが、このプロジェクトでは、最新鋭の技術が採用されていたものの、それらすべてを適切に実装するための計画が欠けていた。そのために途中段階で、ハイテク機器の一部で構成の不備が問題になった。診察室の壁コンセントの再工事も必要になった。ミッションクリティカルな基幹EMR(Electronic Medical Record:電子カルテ)システムも、手直しを加えなければならなかった。総じて、ワールドクラスの施設を作るのはいばらの道だった。

 「すべての準備をどのように円滑に進めるかという計画がなかった」とフェアクロース氏は語る。また「IT部門にはこれ以上ないほどのプレッシャーがかかった」と同センターの臨床がん研究部門の責任者フィリップ J.マンノ氏は付け加える。

 フェアクロース氏は同センターの2人目のCIOだった。新施設のオープン前であったにもかかわらずだ。初代CIOが古巣のカジノ業界に戻ってしまったことから、同氏は2005年4月に同センターに迎えられた。フェアクロース氏は優れたITシステムを引き継いだが、その実装戦略はあいまいなものだったという。データセンターの構築期限は6カ月後だったが、その成否は最終工程を4週間という強行スケジュールでこなせるかどうかにかかっていた。

 「施設の鍵を渡されてから患者を迎えるまでの期間は4週間しかなかった」とフェアクロース氏。ところが、その間の大詰めの作業の計画は立てられていなかった。購入担当者は、個々の購入品の役割はある程度理解していたが、どうやってシステムを組み上げるかは見えていなかった。ベンダーは、「どのように構成してもかまわない。とにかく全体がうまく動くようにしてほしい」としか言われていなかった。

非協力的だったベンダーに時には苦情の電話も

 そこでフェアクロース氏は、独自の計画を立案した。同氏は使われていないデータセンターを市街で見つけてきて、新施設への搬入前に、ベンダーにそこで機器を構成させるようにした。機器ラックを注文する時間はなかったので、ラスベガスにはいくらでもあった宴会用のテーブルを使った。担当者はビュッフェの料理のようにテーブルにネットワーク機器を並べることになった。

 「すべての担当者に同じ部屋で一緒に仕事をしてもらう必要があった」とフェアクロース氏。「EMC、シスコ、デルが別々のコーナーに陣取っていた。ベンダーたちはお互いによそよそしかった」

CIOのリチャード・フェアクロース氏はベンダーに強行スケジュールを課し、責任を持って対応するよう求めた CIOのリチャード・フェアクロース氏はベンダーに強行スケジュールを課し、責任を持って対応するよう求めた

 フェアクロース氏は間もなく、ベンダーの積極的な協力を得ることこそが、最大の難題の1つであることを思い知った。カジノ業界で働いていたときはそうした苦労はなかった。

 カジノ業界におけるビジネスでは長年にわたって高い収益が見込めることから、ベンダーは、顧客の要望に応えようと懸命になる。「彼らはカジノのIT担当者を手厚くサポートし、100%満足させようとする」(フェアクロース氏)

 フェアクロース氏はネバダがんセンターで6社の大手ベンダーを利用していた。その1社は、機器を設置しただけでさっさと引き揚げてしまった。「どうセットアップすればいいのか」とフェアクロース氏は困惑した。「彼らはフリーダイヤルの番号を置いていっただけ。こんなやり方は受け入れられない」

 その種のことが相次ぎ、フェアクロース氏はベンダーのCEOに思わず苦情の電話を入れた。設置担当者は、数日後に大慌てでラスベガスに戻ってきた。

 「明らかにベンダーの反発を買っていた」とフェアクロース氏。「だが初期構成をしっかりやってもらうのは当然だ。彼らは設置だけして早く帰りたがっていた。ITトレーニングやユーザーのフォローも彼らの眼中にはなかった。わたしは彼らに、『われわれがこれをきちんと稼働させて、サポートできるようになるまで、ここにいてもらう』と宣言した」

 そして05年9月のある金曜日にネバダがんセンターは、ラスベガスにある小規模な診療センターを閉鎖、その週末に新施設に引っ越した。翌月曜日に新施設は最初の患者を迎え、記念の花火も打ち上げられた。

 「思った以上に時間がかかった。私のキャリアの中で、データセンターの統合や移転を行ったのはこれが3〜4度目だが、正式運用を開始するまでは、問題解決の連続になるのは分かっていた。このプロジェクトでは事前に手を打ったおかげで、最後の2週間でスパートをかけることができた」とフェアクロース氏は振り返る。

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