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» 2016年10月26日 07時26分 UPDATE

視点:インダストリー 4.0 における「つながるビジネスモデル」 の重要性 ――商用車におけるリマニファクチャリング事例 (1/3)

つながるビジネスモデルとは何かについてを商用車市場でのリマニファクチャリングを事例として紹介する。

[大橋 譲(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

 インダストリー 4.0 は、ドイツ政府が推進する通信技術がもたらす製造業の変革の取組みである。 開発・生産・サービスといった製品のバリューチェーン上のプロセスで扱う情報を、細かくリアルタイムに吸い上げる。 そして、取得した情報を解析し、製造装置の制御データや生産管理用のデータとして使うことで、変化する市場ニーズや、工場の稼働状況等に応じて、最適な製品を、最適な時期に、最適な量を生産し、市場投入することを目指している。

 インダストリー 4.0 のこれまでとの違いとして挙げられるのは、安価なセンサーによる情報収集とこれらをリアルタイムに集約できる通信技術の活用である。 これらは 「つながる」 ための技術であるものの、実はインダストリー 4.0 の本質ではない。 より重要なのは 「つながるビジネスモデル」の構築である。 つながるビジネスモデルとは顧客との接点としてのつながり、顧客に価値を届けるために連携すべきパートナーとのつながり、そして付加価値そのものの連鎖によるつながりの 3 つである。 これらのつながりを深く考えることでインダストリー 4.0 の本質が見えてくる。

 本稿では、つながるビジネスモデルとは何かについてを商用車市場でのリマニファクチャリングを事例として紹介しながら説明したい。

1、商用車のリマニファクチャリングが実現した3つの「つながる」

 まずリマニファクチャリングとはなにかを簡単に説明したい。端的には、商用車の使用済みの部品を顧客からメーカーが回収し、新品同等に再生して再販することを意味する。 商用車とは主に大型トラックやショベルカーなどの建設機械であり、これらを利用する顧客は購入した商用車を 10年間以上使い続ける。

 10年間以上使い続けると、主要部品であるエンジンなどは1度や2度交換することは珍しくない。 この交換する部品を新品ではなく、リマニファクチャリング(以下、「リマニ」と記載)された再生部品を活用することで顧客は新品同等の品質のリマニ部品を新品より安価で使える。

 一方、商用車メーカーにとっては、本来新品で交換する代わりに安いリマニ部品を販売するため売上減につながるように見える。交換部品の販売量が増えないという前提であれば確かに売上減につながる。しかし、リマニを事業として取り組む Volvoのような商用車メーカーは、リマニを活用することで交換部品の販売量だけでなく新車販売台数も増やし、全体的な売上増加につなげている。リマニはこれまでの新車販売とは異なる「つながるビジネスモデル」でこれを実現している。

つながる(1)顧客との「接点」を強化する

 商用車を生産・販売するVolvoのようなメーカーにとって顧客との関係維持はとても重要だ。 これまでも正規販売店が顧客との対話を通じて車両を販売し、メンテナンスすることで顧客との関係を維持してきた。良い関係を維持し続けることができれば車両の品質を保てるし、次の新車販売機会を探ることもできる。しかし、顧客との関係を維持することが年々難しくなってきた。

 商用車市場では国内外で低年式化(車両が初度登録されて廃棄されるまでの期間が延びていること)が進んでいる。技術の発展により耐久性が向上したという要因もあるが、リーマンショックや直近の中国市場の低迷などの経済停滞により保有年数が長期化したことがより直接的な要因だ。保有期間は平均で 10年間以上、国によっては 20年間近くになり、Volvoも同様の状況だ。

 もちろんVolvoの正規販売店は充実したメンテナンスや修理メニューを提供することで長期間に渡り顧客や車両との接点を維持することを心がけている。しかし、大きく2 つのタイミングで顧客が正規販売店から逃げてしまう。

 一つ目は、購入してから無償保証期間やローン返済期間が終わる 5年目以降(実際の期間は国によって異なる)。少しずつ故障頻度が高まり、修理費用が有償となることから顧客のコスト意識が高まる。5年間も経つと新車の輝きもないこともありメンテナンスや修理を正規販売店ではなく、より低価格なサービスメニューや交換部品を持つ独立系の修理屋を活用するようになる。

 二つ目は、購入から 10年間以上経った頃だ。エンジンなどの大型部品はメンテナンスだけでは品質維持が難しくなり、交換が必要となる。10年間以上経った車両を持つ顧客の心情として部品の交換のために新品を使うよりは、独立系の修理屋が持つ中古部品(廃棄になった車両から回収した部品のこと)を使ってコストを抑えたいと考える。

 このようなタイミングで、正規販売店から顧客が離れていく。もちろん両方のタイミングの前後で顧客が車両を中古車として手放してしまうこともあり、この場合は顧客と車両の両方を完全に見失うことになる。せっかく車両を購入いただいた顧客との接点を維持できないことは次の新車販売の機会を失うだけでなく、販売店はサービス・メンテナンス収入が得られない。さらに逃げてしまった顧客が一般市場に出回っている品質にバラツキのある中古部品で修理 ・ 交換することにより、万が一その車両が不具合・事故に遭遇した場合、Volvoのブランドを毀損する可能性もある。

 Volvoはリマニ部品を使うことによって顧客と車両との接点をより強化することに成功した。 リマニ部品は新品より2〜3割安価に価格が設定されており、新車としての無償保証期間が切れた 5年以降に部品を交換する際にリマニ部品を使えば顧客の財布に優しい。

 また、リマニ部品はVolvoのリマニセンターといわれる工場で解体・洗浄・ 加工・調整した上で、新品と同じ検査工程を得て新品と同等の保証内容・期間が付いて出荷されるため、廃棄された車両から回収された一般的な中古部品とは品質レベルが大きく異なる。結果、顧客は長期間に渡って使う車両のメンテナンスにリマニ部品を安心して選択できるため、その間もVolvoの正規販売店の顧客としてとどまる。Volvoや正規販売店は次の新車を販売する機会を持てるほか、サービス・メンテナンス収入の増加を期待できる。 (図A参照)

図A:リマニファクチャリングによる顧客との接点強化
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