2024年問題、減らぬ再配達 「運べない荷物」2年後には3割に

「2024年問題」が本格化する来年4月1日まで約5カ月に迫った。残業規制厳格化の対象分野は物流や交通、建設、医療など幅広く、国民生活に与えるインパクトは計り知れない。

» 2023年11月07日 08時04分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 「2024年問題」が本格化する来年4月1日まで約5カ月に迫った。残業規制厳格化の対象分野は物流や交通、建設、医療など幅広く、国民生活に与えるインパクトは計り知れない。政府や各業界の取り組みは進んでいるのか。現状に迫る。

取り組みはひと握りだけ

 千葉県八千代市の住宅設備大手TOTOの物流センター。広い構内では順次、製品の積み降ろし場所(バース)で、トラックの荷台に製品が積み込まれていく。

 構内1カ所目のバースで荷積みを終えていた運転手の栗山陽子さん(51)はスマートフォンを確認すると、同社側から2カ所目への呼び出しメッセージが来たため車を回した。待機時間はわずかだった。

 社内でも随一の1日約100台のトラックが出入りする同センターは、製品別の複数バースがあるため、それぞれで積み降ろし作業が発生する混雑しやすい環境下にある。来場時間を予約できる現システムの導入前は到着順だった上、バースごとに並び直す必要があり、構内の空きスペースは待機中のトラックで埋め尽くされていた。

 「今のシステムが導入されるまで2〜3時間待ちが普通だった」。運転手の山口哲朗さん(39)は、そう振り返る。

 社内でも問題視されていた中、令和2年に担当者が物流関連の展示会で現在の予約管理システムに巡り合った。荷物量や積み降ろしの能力値などから作業時間を計算し、呼び出しを行う。何より複数バースがある施設にも対応していた。導入後は平均待機時間が10分の1まで短縮された。

 だが、栗山さんは実情を打ち明ける。

 「中小の荷主を中心に対策を打っているところはまだまだ少ない」

 荷物の発送元である荷主企業の中でも、運送業者の負担軽減に取り組んでいるのは、危機意識と体力があるひと握りの企業に限られている。

荷主の協力なくては

 各業界で人手不足の深刻化が懸念される「2024年問題」。長時間労働や低賃金などを要因とし、慢性的な担い手不足と高齢化が問題となっている運送業界は象徴的な分野とされている。

 12年には全国の荷物の35%が運べなくなるとの推計もあり、政府は物流危機の回避に向け、(1)物流の効率化(2)荷主・消費者の行動変容(3)商慣行の見直し−を柱とする対策パッケージをまとめた。

 待機時間短縮、賃上げに向けた適正な運賃設定などは「荷主の協力なくして改革はありえない」(トラック業界幹部)。国土交通省は荷主と立場の弱い運送業者との取引を監視する「トラックGメン」を7月に新設。悪質な荷主に対する是正措置を活発化させている。

 だが、国が昨年10月に実施した製造・運輸など1707社へのアンケートで、2024年問題の対策を講じている企業は5割余りにとどまった。

 対策が進まない理由は何か。ある荷主企業の担当者は、その一つに消費者の存在を挙げる。

 「対策に投資をするにも、運賃引き上げに応じるにも、その分を商品価格に転嫁する必要も出てくる。原材料の高騰による値上げが進む中で、どこまで消費者が理解してくれるのか」

置き配」進まず

 午前7時すぎ、千葉県松戸市の運送会社「エアフォルク」の集配センター。軽ワゴン車やトラックの運転手たちは、ほぼ荷物で満載になった荷台を眺め、なるべく多く積むにはどうすべきか考えを巡らせている。積みきれない荷物も多く、後で戻って再び配送する。

 同センターは企業配送が多く、個人向け荷物は少ない。それでも運転手の男性(42)は「1日に配る荷物150個程度のうち、1割くらいが再配達になる」と話す。

 最近は残業規制強化による人手不足が懸念される「2024年問題」対策の一環で、玄関先などに荷物を置く「置き配」の普及も図られている。しかし、男性は「あまり(消費者の)対応は変わっていない」と漏らす。

 出荷元の荷主によっては、盗難や雨ぬれなどを懸念し、消費者が希望したとしても、裸での置き配を禁じている。同社の井上貴夫社長は「個人宅で置き配用のポスト設置などが進めば」と望む。

 宅配の荷物が中心の別の集配センターは再配達率が2〜3割に上る。夜間帯の配達指定も多く、運転手の勤務終了は午後9時ごろに及ぶ。

 井上氏は「配送にはコストがかかっていることが理解されていない」と現状に不満をこぼす。

運送会社の集配センターではうず高く積まれた荷物を運転手たちが配送車両に積み込んでいた=18日、千葉県松戸市(福田涼太郎撮影)

持ってきてくれるだけで

 配送日程や運賃は荷主の意向が強く反映されるため、政府は荷主の意識改革に力を入れている。一方、斉藤鉄夫国土交通相は消費者こそが最も影響力の強い「究極の着荷主」と位置付け、その理解を得ることが不可欠との考えも示す。

 国交省によると、インターネット通販の急成長に伴い、令和4年度の宅配便取扱個数は初めて50億個を突破。一方、再配達率は11.4%(今年4月時点)に上り、宅配業者の負担軽減に向けた最重要課題となっている。

 政府は6(2024)年度に再配達率を6%まで半減させるとの目標を設定。置き配や、ゆとりある配送日を選んだ消費者にポイントを付与する実証事業を行う。ネット通販などの「送料無料」表記も、運賃が無料との誤解を招きかねず、消費者の理解を阻害するとして見直しを検討中だ。

 野村総合研究所の推計では、対策をとらなければ、全国で運べなくなる荷物量は2年後に早くも28%に到達。地域別では32%の東北をはじめ、北海道、北陸、四国、九州が3割に達する。

 今後は翌日配達や再配達の有料化なども懸念される中、物流問題に詳しい流通経済大の矢野裕児教授は、消費者の意識改革の必要性を説く。「例えば生鮮食品は、旬もなく代わる代わるの産地から、一年中スーパーに大量の同じ食材が集められている。物流に負担がかかって当然だ。それに慣れた消費者も食生活から改めるべきだ」と指摘。その上で「今後、サービスレベルの低下は避けられない。特に地方では、『持ってきてくれるだけでもいい』という状況になるだろう」と語った。

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