事業の多角化と外部人材で成長 国内の住宅市場にも商機 大和ハウス工業・芳井敬一社長

外部人材を獲得するなど、事業の多角化を進めたことで、売上高10兆円という創業者が掲げた大目標に向け「できないことがほぼなくなった」と強調した。

» 2024年09月17日 09時12分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 大和ハウス工業の芳井敬一社長は13日までに産経新聞の単独インタビューに応じ、外部人材を獲得するなど、事業の多角化を進めたことで、売上高10兆円という創業者が掲げた大目標に向け「できないことがほぼなくなった」と強調した。実際、令和6年3月期には建設業で初の売上高5兆円を突破しており、人口減などで縮小が懸念される国内の住宅市場も、依然多くのチャンスがあるとした。主なやりとりは次の通り。


インタビューに応じる大和ハウス工業の芳井敬一社長=4日午後、東京都千代田区(関勝行撮影)

――売上高5兆円を突破した

 「社員とお客さまのおかげだ。私たちはかつて、“選ばれない”企業だった。事業コンペでは価格を安くしても大手ゼネコンが参加していれば、仕事を請け負えなかった。でも、選ばれる方法を懸命に考えてきた。土地所有者に新たな活用方法を提案して、一つずつ開発を受注していった。私もそのように営業した。それと、高い目標があるからだ。創業者が売上高10兆円を目指すよう言ってくれた。私たちは事業を多角化しながら成長を追い続けている」

――10兆円は容易な目標ではない

 「4兆円を5兆円にするのなら身近な商機を探す。でもそれでは10兆円はできない。だから事業ポートフォリオ(構成)を大胆に入れ替えている。リゾートホテル事業を売却したが、彼らの事業の成長も考えてのことだった。私が社長に就任したころはパーツ(事業分野)が足りなかった。特にスーパーゼネコンが手がける領域は事業の進め方が分からなかった。しかし3年に大成建設の社長を務めた村田誉之さんが副社長に就任してくれた。そのため社員も安心感を持って新事業に取り組めるようになり、できないことがほぼなくなった」

――社内起業制度を立ち上げ、300億円の投資枠を設定した

 「この事業を通じて、新しいものを生み出そうという社員のエネルギーを感じた。すでに900件近くもの提案が寄せられ、これから選考するが、新しいものを生み出す力がこの会社にはある。実際に事業を始めれば、1年で挫折することがあるかもしれない。でも、心から応援したい」

――日本は人口減少が続き、世帯数も間もなくピークを迎える。中核事業である住宅産業の今後は

 「業界としてやるべきことがたくさんある。人口減だが一人暮らしの世帯も増えておりチャンスがある。新築とリフォームの両輪で進める。海外進出する企業は多いが、日本市場が収縮しているから海外に出なければ、と考えている企業は、一社もないと僕は思う」

大和ハウス工業の芳井敬一社長(関勝行撮影)

――海外事業の狙いは

 「大事なのはもうかるから進出するのではなく、私たちが持っているもの、日本品質を海外の顧客に伝えるということだ。米市場では現在、壁や柱などの部材について(建設現場でなく工場で生産する)工場化比率を上げることを目指している。バージニア州の子会社では、この手法で工期を約1カ月短縮できた。日本語で言えば、優れた段取りだ。これは海外で通用する。M&A(合併・買収)を提案した米企業なども、一番関心を持つのが私たちの工場だ」

――資材価格の高騰リスクをどうみる

 「購買チームの頑張りで、資材の品薄はほぼない。ただ価格は当然ベースが上昇し、工場で作る値段も上がっている。それらを積み上げれば上振れてしまう。購入しやすい価格にどう落とし込めるか、工夫している。

 問題は金利だ。米国では金利が下がりはじめているが、まだ下がるとの観測から、人々は住宅の購入を手控える。(金利の引き上げが始まった)日本は変動金利にどう人々が対峙するのか見えていない」

――建設業は労働者不足が大きな課題だ。現場でのロボットや人工知能(AI)の活用は

 「重要なのは、どこまで(安全性などの)検査に対して対応できるかだ。工法がデジタル化しても、検査体制がアナログではいけない。どのような仕組みであるべきか、私が会長を務める住宅生産団体連合会が現在、国土交通省とともに検討を進めている」


芳井敬一

よしい・けいいち 昭和33年、大阪市生まれ、66歳。中央大文学部卒。神戸製鋼グループで実業団のラグビー選手として活躍した後、けがを機に退社。平成2年、大和ハウス工業入社。海外事業部長、営業本部長、取締役専務執行役員などを経て29年11月から現職。住宅生産団体連合会会長、大阪商工会議所副会頭などを務めている。


編集後記

 「あの会社の仕事を全国で請け負わせてもらっているけど、地鎮祭や竣工式には、すべて参加させていただいている。僕の原点だからだ」

 芳井氏がそう語ったのは、トラック運送大手の名鉄運輸のことだ。30代の頃、飛び込み営業を続けるなか、同社が受け入れてくれたのだという。受けた恩は決して忘れない姿勢を垣間見た。

 驚いたのは、若き日の芳井氏が営業をしていた名鉄運輸の事業所が、まさに記者が住むすぐ近くにあったことだ。数年前にスーパーとして再開発されたばかりだった。「30年たって、花開いたんだよ」。胸に熱いものがこみ上げた。(黒川信雄)

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